第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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 京都駅で乗り換えて、列車は北へと向かっていた。車窓ごしに覗く景色は、新緑の、のどかさを漂わせていた。

 そんな景色を眺めながら、杳はかなりうんざりしていた。出発地点から既に4時間近くも列車に乗っていたのだ。いい加減、飽きていた。

 その目にふと、異質な物が映った。

「…あれは…」

 五月の晴れ渡った青空に、わずかに霞が浮かぶ。その中にあったものに、その奇麗な眉を寄せた。

「何?」

 正面の席に座したまま、しゃべる気も失せていた茅晶が、杳の声に彼の視線を追った。

「風竜…潤也だ」
「え?」

 しかし、茅晶の見る方向には何も見られなかった。そこにあったのは、からりと晴れた青空だけだった。竜なんてどこにも見えなかった。

「何で一人なんだろう。ヒロ達は…」
「見えるの?竜が」

 つぶやく杳に茅晶は、不審そうな目を向ける。

「だってあそこに…」

 言って杳は、その方向を指さす。しかし茅晶はその方向ではなく、杳の横顔をじっと見つめた。

 茅晶の視線に気づき、心地悪そうに杳が聞く。

「何だよ?」
「見えるわけ…ないのよ」

 呟いて、杳を見る目に険を含ませる。

「連中が意識的に姿を現さない限り、竜は見えないわ。私だって殆ど見た事ないのよ。ましてや人間のあなたになど」

 見える訳がない。あり得ない事だと、茅晶はきっぱり否定する。

「でもあみやには見えていたんだろ?」
「あみやは力が強かったから…。杳くんもそうなの?」
「力?何の?」

 およそ自分とは縁遠い単語に、杳こそうさん臭そうに茅晶を見返した。

「竜を封じる力よ」
「は?」
「竜の宮の神官の本来の任務は竜を封じることだと言われていたわ」
「竜の巫女なのに?」
「そう。だから竜の神官なのよ。あなたにもその力があるの?」

 ばかばかしいと肩をすぼめて見せる杳を、茅晶は意味深な表情で見やる。それから、詳しいことは知らないと前置きして、茅晶はまた古い話を始めた。


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