第 6 章

-3-

8/12


 一通り、周囲を見回して、ほっと一息つく優。その肩を掴んで、聖輝は声をかけた。

「何をしている?」
「えっ?」

 ギョッとした顔のまま振り向く。聖輝の姿を認めると、優は素早くその手を払いのけた。そのまま逃げようとするのを、聖輝は前方に回り込んで邪魔をする。

「何の真似だ?何をしていた?」
「…」

 聞くと、そっぽを向いた。答えるつもりなどない様子が伺われた。

「お前、また竜王の元にもどったのか?」
「違うっ」

 即否定が返ってきた。

「だったら…」

 問い直そうとして、ふと、逃げ損ねた人の姿が見えた。まだ残っていたのかと、舌打ちする聖輝の横で、優が先に行動を起こした。

 何かの言葉を口の中でつぶやくとともに溢れる光。それに導かれるように、その人は戦いの場から遠ざかって行った。

「お前…」

 優は光の導く力を利用して人を操り、危険から遠ざけていたのだった。

「お前らと一緒に戦う気はない。だけど…人は殺せない」

 顔を背けたまま言う。

「勝手な奴だな」
「何とでも。俺には戦う力がない。それだけの理由だ」

 竜王や炎竜達に比べて、戦闘能力の格段に劣ることは知れていた。当初、この戦いに加わっていたことの方が、却って不審なくらいだった。

「戦うだけが竜の力の全てじゃないことは、お前がいつも他の4人に言っていたことじゃないか」

 思ってもみなかった聖輝の言葉に、優は驚いたように振り返る。それに答えるでもなく、聖輝は上空を見上げる。

「さて。2対1は卑怯だが、風竜は炎竜の弱点を知っているからな。助けてやるか」

 独り言のように言って、聖輝はゆっくりと気を膨らませる。その姿に、慌てて優は声をかける。

「待てよ」
「ん?」

 声をかけておきながら、言おうかどうしようか一瞬迷った様子がうかがえたが、優は口を開く。

「竜王の作った宮の入り口はここじゃないぜ」

 意外な言葉に驚く。

「奈良の飛鳥の里だ」

 そう言った優を、真正面から見やる。

「信じなくてもいいぜ。選ぶのはお前らだ」
「分かった」

 聖輝はそう言って、そのまま空へ舞い上がった。それを見送る優は、小さくつぶやく。

「…戦うだけが全てじゃない…か」

 わずかに苦笑を浮かべて、くるりときびすを返した。


   * * *



次ページ
前ページ
目次