第 6 章
罠
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「まだいける…」
とてもそうは見えなかった。このまま戦っても、結果は見えていた。
「次、ヒロ来る?」
振り返るとすぐ背後に潤也がいた。
「どけよ、結崎」
その潤也の姿に、露は尚も立ち上がろうとする。
「お前は下がってろ」
起き上がろうとする露を、寛也は無情にもポンと背を押して地に倒し、痛みにうめく露に言う。
「死にたくないなら、おとなしくしてろ」
「くっそー」
露は悔しそうにうつむいた。それを見届けてから、寛也はもう一度潤也を振り返る。
「お前、もう本当に元のジュンじゃねぇんだな」
「感傷に浸っているようじゃ、僕は倒せないよ」
「そうかよ」
寛也はぐっと顔を上げ、潤也を睨む。その先に潤也の真剣な目を見た。
身体が弱くて、幼い頃は寝てばかりだった。母親が亡くなる時、多分、一番心残りだったのは潤也のことだったろう。弱くにしか産んであげられなかったとの涙が、今でも思い出される。その手をしっかり握って、大丈夫だからと、元気になるからと、泣きたいのを堪えて笑って見せていた優しい潤也。
それなのに――。
「お前がそう言うのなら、分かった。ジュンだからって手加減、しねぇからなっ」
「手加減なんてしてたら勝てっこないよ、僕には」
「ぬかせっ」
寛也は身体中の気を高める。同じように潤也も続く。
自然に、違和感なく竜体になってしまう自分に疑問を感じなくなって、どれくらいたつのだろうか。
寛也は力が身の内から満ちてくるのを感じた。竜体になる度に、力を使う度に強くなっていく力を。
* * *
「ん?」
気の流れの変化を感じて、聖輝は空を見上げた。そこに炎と風の竜体があった。
「あいつら…」
止めても聞く寛也でないことは十分分かっていた。
それでは同じように負けず嫌いな石竜はどうしたのだろうか。寛也が参戦すると言う事は、露が退いたと言うことで、多分に深手を負っていることが考えられた。また、手間が増えたようだった。
救援のために戻ろうか、それともこのまま人を遠ざけることに尽力するか、一瞬迷う。放っておいてもそうそう竜は死ぬことなどない。それよりも人間の方がずっと脆弱だった。
見渡すと、もう殆ど人影は見られなかった。
とは言え、遠くから眺めることは出来る。竜の姿を見ることのできる人間などいる筈もないが、上空の異変は感づかれるだろう。どうするか――戸惑う聖輝の目に、ふと、光が映った。
何だろうかと見やった先に、見覚えのある姿があった。
杉浦優、光竜だった。
「何であいつが…」
一体何をやっているのだろうか。
光が降り注ぐ中、人々の動きが妙だった。この場所――竜達から遠ざかって行くように見えた。
幻惑の術を使っていることに間違いないようだった。
* * *