第 6 章

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「うわっ」

 血しぶきが飛ぶ。がっくりと膝折れ、ひざまずく。裂かれた皮膚から血が更にしたたり落ちる。

「そんな力で竜王と戦おうって言うの?無謀だよね」
「うる…さい…うっ…」

 荒い息で返す。

「今度こそとどめだよ」

 もう動けなかった。うつむいたまま、次の攻撃を待つしかなかった。目を閉じる。

 バシッ。

 何かをはじき返す音が聞こえたかと思うと、潤也の離れる気配を感じた。何事かと露は目を開けて顔を上げる。

 離れた場所に立つ潤也の視線の先に、寛也と聖輝が立っていた。

「何やってんだよ、お前ら」

 寛也が露の側へ駆け寄る。そのすぐ後を聖輝が続いた。丁度、露と潤也の間に割って入る形で立つ。

「少し派手にやりすぎたかな」

 周囲の惨状を改めて顧みて、潤也は苦笑混じりにつぶやく。その彼の態度に、寛也は低く聞く。

「お前、水穂を殺す気か?」

 見ると普通の人間ではとても助かりそうもない程に痛手を受けている。その姿に、近づいた聖輝ですら一瞬怯む。が、聖輝はすぐに癒しの術をかける。

「気をつけろ、そいつは…」

 言おうとして露は、おとなしくしていろと聖輝に押さえ付けられる。その様子をちらりと見やり、寛也は潤也を睨む。

「ケンカしてる場合じゃないのは分かってるよな」
「当然」

 平然と返す潤也に、多少声が荒くなる寛也。

「なら理由を言えよ。つまんねぇ言い訳なんかじゃ、ぶっ飛ばすぞ」
「竜王に寝返ったって言うのは殴られるかな」

 ピクリと寛也の眉が動く。

「何でだよ。お前、竜王に味方するって意味、分かってるよな?」
「分かってるよ」
「あいつが正しいと思ってるのかよ?」
「正しくないと味方しちゃいけないの?」
「ジュンッ!」

 らしくない言葉だった。寛也は一瞬、この目の前にいる人物が本物かどうか疑いたくなった。しかし、すぐにそれを打ち消す。

「生憎だけど、僕は竜王の側につこうと決めた。それが正しいかどうかなんて問題じゃない」
「お前…っ」
「僕の役目は半覚醒の連中の、その皮をはぎとること。かかっておいでよ。四天王と呼ばれた僕達は、戦いによって目覚めるのだから」

 それは今まで見たことがないような表情で、しかし、かつてあった風竜そのものだった。

「お前、もう、ジュンじゃないみたいだな」
「ヒロがそう言うんだったら、そうなんだろうね」

 その顔に笑みさえも浮かべて返す潤也に、寛也は絞り出すような声で聞く。

「何でその身体に転生してきた?よりにもよって」
「さあね。戦がその身体に転生した理由が言えたら、答えてあげるよ」
「ふざけやがって!」

 寛也の気が一気に膨らむ。

「結崎っ!」

 止めようとする聖輝の、その袖を掴む者がいた。見ると露が何とか起き上がろうとしていた。


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