第 6 章
罠
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「中途半端な力なら使わない方がましだ。今のうちに退散しなよ」
「ざけんなよ…」
露の怒りの表情に合わせて、朱色のオーラがその身を包む。それと同時に、露は竜身を現し、一気に天へと駆け上がった。土煙と水しぶき、突風が舞い上がり、天に雲が集まった。
グズグスと、鈍い音を立てて足元がうごめいた。
潤也はその一連の動きを見届けてから、小さく笑いをこぼす。
「幼いよ、鎖鉄」
言って、潤也は風のバリアを張り巡らせる。それは竜体の攻撃をも跳ね返す力を持っていた。
石竜が旋回した隙に、集まった風で、その巨体を縛る。
低くうめいて苦しむ石竜を、冷めた目で見上げる。
「馬鹿だよね、大きくなればいいってものじゃないんだよ」
そのまま石竜をひねり上げる。
勝利したと思った瞬間、潤也の足元の大地が割れた。
「え…!?」
足元が崩れる。海水があふれ出て、潤也はバランスを崩した。一瞬、そのことに気を取られた間に、石竜は風の戒めから抜け出した。
そのまま、露は少し離れた場所に着地してひざまずく。いつの間にか人間の姿に戻っていた。
先程受けた胸の傷口から血がしたたり落ちた。吐く息がどうしても荒くなった。目が霞んでくるのは出血が多いせいだった。
その一方で、潤也は何とか逃げ出し、後方へ飛びすさる。
二人の間の大地が、ぽっかりと割れていた。
「くそ…塞がらない…」
露は傷口を癒そうとするが、なかなか思うようにいなかなった。
「よく生きてるね。普通、人間ならもう死ぬけどね、それだけ深いと」
迂回しながらポンポンと身軽に跳ねて、潤也は露の目の前に立った。
「お前…」
立ち上がろうとするが、身体が動かず、見上げることしかできなかった。
「昔の力の半分も使えないような者に用はないよ」
潤也の手のひらに集まるのは風の粒子。それを見てギョッとする露。この状態のままでは切り刻まれる。
「もう一回転生し直しておいで、鎖鉄」
言葉とともに繰り出される粒子に、露は寛也の言葉を思い出す。
――やばいと思ったら全力で逃げてこい。
「そんなカッコ悪いマネ、できるかよっ」
つぶやいて、瞬時に身の回りに石のバリアを張る。粒子を受け止めるとともに、潤也目がけて飛び出す。
「遅いっ」
それを素早くよけて、潤也は次の攻撃を繰り出す。襲ってくる風の刃を避けきれず、露の身が切り裂かれた。