第 6 章
罠
-3-
3/12
「なん…だよ、いきなり」
露はしりもちをついて潤也を見上げる。見下ろしてくる目は冷静だった。
「まだまだ甘いよね」
言って、風が舞う。と同時に繰り出される風の刃を、露は逃げながらはたき落とした。
「冗談はやめ…うわっ」
大きめの攻撃を何とかよけて、露は潤也を睨んだ。
「危ないじゃないか。当たったら死ぬぞ」
「なかなかすばしこいね。でも、これはどう?」
潤也の周囲の風がいくつもの細かいナイフの先のような形を取る。それが一斉に露に襲いかかってきた。
「うわぁ。まってまってまってまって、まってってばーっ」
露は器用に潤也の攻撃を弾き飛ばしていたが、それを見ていた潤也は笑みを浮かべて一際大きな風の塊を作り出した。その中には幾つもの細かい刃が潜んでいた。それを逃げ回る露に向けて繰り出した。その数の多さに、露は一瞬にして避けきれないと悟る。
「くっそー」
舌打ちして、身構える。バリアなんて張っている間はない。攻撃か受け身か一瞬迷って、受け身を取る。が、押さえ切れずに跳ね飛ばされた。
「うわーっ!」
土煙が舞う。周囲の空気が薄くなり、その圧力に水しぶきも散った。
露は地面にたたきつけられ、大地をその身でえぐって、ようやく止まった。
「もうおしまいなんてこと、ないよね」
露は上体を起こして、土の混じる唾を吐く。口元を袖で拭って、立ち上がった。
「何考えてんだよ、あんた。相手が違うだろうっ」
「合ってるよ、鎖鉄(さてつ)」
「じゃあ、敵ってことだよな」
「残念ながらね」
言って潤也は眉一つ動かすでもなく、身の周りの風を呼び起こす。
風圧が露を襲う。身体を押さえ付ける程のそれに露は足を踏ん張る。
「面白い。やってやろうじゃねぇの」
露は握りこぶしをし、その腕に力を込める。と、潤也の足元の小石が幾つも宙に浮かび上がり、潤也目がけて瞬時に集まった。潤也の身体を押し固め、身動きができなくさせて、露はニッと笑う。
「ヤワだよな」
「誰が?」
背後から声がした。ギョッとして振り返り様、切り裂かれた。
「うわーっ!」
ザックリと胸部を切られ、露はうずくまる。地面に血がしたたり落ちる。その向こうで石の塊が崩れ、中から木の枝が出て来て、地面にバラバラ落ちるのが見えた。