第 6 章

-3-

2/12


 松の木が立ち並ぶ海岸線。遠くに続く細長い道。まるで海を泳ぐ竜のようにも見えた。それはその昔、天を翔る竜の姿を海の鏡に映したものだと言われた。

 天を翔る巨竜を――。

 その遊歩道を何が楽しくて男二人で歩かなくてはならないのかと、ため息をつきながら歩く寛也に、ふと聖輝が声をかけてきた。

「お前ら、似てない双子だな」

 突然の言葉にしばし間を置いて、寛也は答える。

「まぁな、良く言われる」
「兄弟で竜か」
「呆れてるのは俺の方だ。あいつを得意な奴なんて俺達の中にいないだろ」
「炎竜を筆頭に、か?」

 昔のことはそれほど覚えているわけではない。苦手と言うものとは少し違うように思えるが、それでも風竜を初めて見た時にはあまり歓迎できる感情は浮かんでこなかった。それこそ人形峠の洞窟で操られていた露の言った言葉にも重なる。それが、転生した現代では兄弟、しかも一卵性双生児だなんておかしくて言葉もなかった。

 それでも、覚醒するまでの時間は現実だった。二人っきりの兄弟で、潤也の身体のこともあり、かなり仲が良かったと思う。それなのに。

「覚醒してから、あんま、話してないから良く分かんねぇけど、あいつ…」
「少し変わった…?」

 内心を言い当てられて、寛也は聖輝を見やる。

「怪しい雰囲気が満々だ。俺達の前に現れたのだってわざとらしかったしな」
「偽物ってわけでもなさそうだけど…」

 そう、同一人物には間違いなかった。

「じゃあ、敵に寝返ったとかな」

 さらりと言ってのける聖輝の言葉は、寛也が昨日からずっと否定してきた言葉だった。何かがおかしいことは、寛也が一番に気づいていた。

「十分考えられるだろう。あいつは最初の集まりにいなかった。竜王にくみするか否かの意思表示はなかった」
「まさか、ジュンに限って…」

 それでも否定したい気持ちがあった。その寛也に、聖輝は冷静なままの言葉をかける。

「凪(なぎ)だ。あいつは完全に覚醒している」
「!」
「迂闊だったかも知れない。あいつの意思は確認していないからな」

 その時、いきなり背後で爆音が鳴り響いた。

 振り返って見たそこに、きのこ雲が浮かんでいた。


   * * *



次ページ
前ページ
目次