第 6 章
罠
-3-
1/12
炎竜が降り立ったのは天橋立のちょうど真ん中辺りだった。平日の早朝、歩いている人もまばらで、誰に感づかれることもないだろうと、寛也は堂々と着陸した。
寛也に続いて残りの三人も地面に足を付けた。
「さてと、結界を探さなきゃな」
辺りを見回して寛也が言う。
「どうやって探す?」
同じように周囲を眺め回して聞く露に、答えたのは潤也だった。
「空間の歪みを見つけるんだ。すぐに見分けがつくはずだよ。手分けをしよう」
「そうだな」
同意を示すのは聖輝。その声を聞いて、聖輝の目の前を露が擦り抜けた。
「じゃあオレ、あっちのロープーウェイに登って、全体風景を…」
「そんな観光客の大勢いるような所に入り口を作るわけないだろう」
そう言って聖輝は、露の首根っこをヒョイと掴んで引き戻す。露はぷくっと頬をふくらませて見せた。
「それから、念のために単独行動は避けた方がいい。二手に分かれよう」
そう言う潤也の提案に異を唱えたのは、露と寛也の二人だった。
「オレ、一人でもいいけど」
「俺も」
ちらりと、そう言う二人に目を走らせて、潤也は聖輝に向かう。
「静川さん、ヒロと水穂くんのどっちがいいですか?」
「どっちもお断りだ」
即座に返す聖輝の返事に、ムッとするのは寛也と露の二人。その二人の様子に、肩をすぼめて見せながら、潤也も呟くように言う。
「僕も同感ですけど」
「お前なぁ」
寛也が文句を言おうとするのを片手でひょいとかわして、潤也は続ける。
「同じ顔をして歩くと目立つんですよ。だから、静川さんはヒロをお願いしますね。僕は嫌われているみたいですが、水穂くんと組みますから」
「…またか」
心底嫌そうに呟いて、聖輝はため息をついた。
とりあえず決まった組み合わせで左右に分かれることになった。結界を見つけた時点で片方が見張り、片方がもう一組へ連絡をする。間違っても単独突入はしないことを念押しして、潤也は聖輝に細かいことの打ち合わせを始めた。一番冷静なのは聖輝だと見て取ったのだろう。その様子を横目に見ながら、寛也はそっと露に耳打ちした。
「用心してろよ」
「は?」
何のことかと見返す露に、寛也は真剣な表情を向ける。
「やばいと思ったら、ジュンを置いてでもいいから全力で逃げてこい」
「どーいう…」
「今の俺達の目的は天竜王を倒すことじゃない。まず地竜王を助け出すことだ。無駄な犠牲は避けなきゃな」
そう言う寛也を、露はマジマジと見やる。
「…お前、そう言う理性的なことを言う奴だった?」
「うるさいな」
「他に何かあるんだろ?」
「別に」
視線を逸らす寛也に、露は勘ぐるような目を向けるが、すぐに返した。
「ま、いいか。逃げ足ならオレなんかより、お前の弟の方が断然速いだろうけどな」
「…」
含みのない露の言葉に、寛也は押し黙って潤也を見やる。
そう、速いのは確かなのだ。逆に言うと、風竜から逃げられる者は誰もいないのだった。
* * *