第 6 章
罠
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カタリ。
足音が聞こえ、紗和は顔を上げる。その気配にはもう慣れていた。思った通りそこに翔が立っていた。
が、その翔の背後に立つ影に、ギョッとする。
「里紗…!」
そこに姉の姿を見いだしたのだった。どうしてここにいるのか。駆け寄ろうとして、立ちはだかる翔に邪魔された。
「翔くん、これは…」
「新堂さんが『使えない』んで、ちょっとお姉さんに協力してもらおうと思いまして、来てもらいました」
「協力って…里紗?」
声をかけてみても、里紗は虚ろな視線を紗和に投げかけるだけだった。明らかに様子がおかしいと分かった。
「翔くん、里紗に…姉に何かしたの?」
「ええ、少し術を施しました。もうすぐ炎竜達が来ます。彼らに対する盾になっていただこうと思いまして」
「は?」
何のことかと首を傾げる紗和に、翔はわずかに笑みを浮かべる。
「彼らに人間が殺せるかどうか…見ものだと思いませんか?」
「君は…!」
眉をしかめる紗和から、翔は視線を逸らす。
「…あなたがその気になれば、簡単に解ける術です。その気になるかどうかは、あなた次第ですけどね」
「僕はそんなんじゃないって、何度言ったら…」
バシッ。
いきなり紗和の真横を何かが通り過ぎた。振り返ると、背後の壁にのめり込むものがあった。視線を戻して翔を見ると、間近に翔の手のひらが自分に向けられていた。何かの力が翔の手のひらから繰り出されたのだと知ってギョッとする。
「その言葉は聞き飽きました」
「僕だって聞き飽きたよ。こんな所に人を閉じ込めて、覚醒しろだ、目覚めろだって言って。僕にはさっぱりだよ。いい加減にしてよ」
「そんなことないでしょ。身に覚えだってある筈です」
「ないよっ」
「自覚がないんですか? 本当に?」
くすくす笑う。紗和にはその翔の顔がひどく冷たいものに見えた。
「今のあれね、本当はあなたの顔面に向けていたんですよ」
「え?」
もう一度振り返って見る背後の壁に、めり込んだ力の跡。壁をえぐり取るように、野球のボール大の穴ができていた。
「滑るように擦り抜けた。無意識でしょうが、一瞬のうちにあなたは防御したんですよ」
「まさかっ、何言ってんだよ…」
「あくまでも認めたくないんですね」
紗和の言葉に辟易した様子で、翔はくるりと背を向ける。そして自分の背後にいた里紗を促した。
「翔くん…!」
慌てて止めようとする紗和に、振り返ることなく翔は答えた。
「炎竜達を出迎えるんです。あなたはそこで傍観者をしていてください。あの時みたいに」
それだけ言って、翔はすっと姿を消した。
紗和はそれを追いかけようとして、見えない結界に阻まれた。
「何で…」
紗和にとっては全く覚えのないことであるのに、何故こんなことになってしまうのか。理不尽な翔の行為に、怒りにもにた思いが浮かんで来た。