第 6 章

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「こらーっ、放しなさいよっ」

 縛り上げられて転がりながら、イモムシ状態の里紗は、その体勢のままわめき散らしていた。それを見下ろして、雪乃が呟く。

「うっるさいわね、まったく…」
「この前は、逃がすって言ったくせして、まーたさらおうなんて、あんた達には自分の言葉を守ろうって言うプライドないのっ!?」
「何のことだか知らないわ」
「よく言うわ、このオカメッ!」
「何ですってぇ?」

 里紗の胸倉を掴み上げようとする雪乃。その背後に、いつの間にか翔が姿を現していた。

「けたたましい雑音ですね」

 翔の声に振り返るや否や、里紗は今度は翔に食ってかかる。

「あんたっ、この縄、ほどきなさいよっ」
「ほどいたら暴れるでしょ?」
「あったり前じゃないの。私をこんな所に連れてきて、あんた達、ただじゃ、済まないわよっ」

 里紗の元気に、翔はくすりと小さく笑う。

「少し黙らせましょうね」

 誰に言うともなくそう言って、翔は口の中で小さく呪文を唱えた。と、里紗の身体に煙のようなものがまとわりついた。

「ちょっと、何!?」
「しばらく眠っていてください」

 翔の言葉に、里紗はふいに意識を失った。がっくりと首を垂れて静かになったかと思った次の瞬間、ぱっちりと目を開け、身体をゆっくりと起こした。

 その様子に、翔はまたくすりと笑う。

「おはよう、お姉さん」

 しかし、里紗の答えはなかった。

「何…したの?」

 雪乃が横から聞いてくるのに、翔は表情を動かすことなく答えた。

「少し気持ちをリラックスさせてあげただけです。ロープをほどいても、もう暴れませんよ」
「…」

 そう言う翔を、雪乃は嫌な物でも見るような目付きで見やった。


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