第 6 章

-2-

5/7


 杳の口から出た言葉に茅晶は目を見張る。その茅晶の表情に杳は自分の推測が正しいことを知る。

「そうなんだ?」
「巫女は…剣を持たないわ。何を言ってるの?」

 慌てて返す茅晶の声は震えていた。ずっと否定し続けていたが、心の隅のどこかでわずかに疑っていたことを言い当てられたような気がした。その茅晶にたたみ掛けるように言う杳。

「あみやを刺した剣は、そのあみやの持っていた方の剣。違う?」

 顔をのぞき込んでくる杳から、茅晶は視線を逸らす。

「あみやは普段、長剣を短剣に変えて懐に忍ばせていた。竜王から授かったお守りとして。その剣で自らの胸を刺したんだ」
「そんなわけないでしょっ!」

 思わず声が大きくなる茅晶。周囲の目に気づいて慌てて声をひそめる。

「憶測だけでものを言わないでよっ」
「じゃあ竜王の自白がなきゃ、真実は誰にも分からないことだよな。たとえあみやが自殺したのだとしても」
「違うと言ってるでしょ。もうやめてよっ」

 うっすらと目に涙をにじませる茅晶から杳は目を逸らす。

「何もあんたをいじめてるわけじゃないよ」

 むしろ、この苦しいのは自分の内にあるように杳には思えた。それの正体が何なのか、とても知りたかった。

「真実が知りたいだけなんだから。翔くんが本当は何に傷ついているのか知りたいんだ」
「竜王は傷ついたりしないわ。神とまで言われた竜王なのに」
「じゃあなぜ乱心したのさ?みんな、何でそう言うんだよ?傷つかない竜王が乱心なんてしないだろう。乱心してあみやを殺したんじゃなくて、あみやの死によって傷ついたんだよ。傷つかない筈の竜王の心が」

 杳は手のひらを見つめて、それをゆっくり握る。

 あれは夢の筈だった。それなのに今も残る感触があった。

 勾玉が見せたものなのだろうか。

 いや、違う。それよりも前から…あれは――。

「杳くん、あの…?」

 杳の横顔に何かを言いかけて、茅晶はやっぱり思い止どまる。そんなことはない、絶対にあり得ないと考えて。

「オレは…誰?」

 ポツリと呟く杳に顔を向ける。

「えっ?」
「…何でもない」

 言って杳はそのまま口をつぐんだ。

 もうすぐ新大阪に到着するとのアナウンスが聞こえてきた。


    * * *



次ページ
前ページ
目次