第 6 章

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「は?」

 いきなりな話の展開に杳は身を引く。

「杳くんを見ていると何だか…」

 とても懐かしい匂いがした。そう言おうとして茅晶は思い止どまる。

「杳くんは何でそんなに真剣になれるの?あなたにはとても手に負えないことなのに」
「そんなことないよ」

 さらりと言ってのける杳に、茅晶は不満そうに返す。

「無力のくせして」
「そりゃ、そうだけど、でも、オレ、ずっと考えてたんだ。竜達のこの戦いの発端は何だったんだろうかって」
「発端? 竜王の乱心よ」

 分かり切ったことを言う杳に、茅晶は一言で返す。が、杳はその答えに首を振る。

「違うよ。あみやの死だよ」
「何言ってるの。乱心した竜王があみやを殺したのよ。竜王のせいだわ」
「オレには翔くんが正気じゃないなんて思えない」
「思えないじゃなくて、思いたくないでしょ?」

 憤然とする茅晶に、杳はため息ひとつついて聞き返す。

「じゃああんた、翔くんに会って話したことがある?」
「何で私が…っ」
「優しいよ、翔くんは。小さい頃からそうだった。今も変わらない…」

 かみしめるように言って俯く杳の横顔に、茅晶は先程打ち消したものを思い出す。

 はにかんだようなあみやの横顔が思い出される。

 ――あまとはね、とても優しくてどこか儚く見える。おかしいでしょ。悠久の時を刻む竜神の長なのに。

 大好きなのだと、体面もはばからず言うあみや。うらやましくて、悔しかった。思い出して、涙が出てくる。鬼の子である自分に、こんな心さえもくれたのは彼女だった。

「ま、ちょっと可愛げのなくなった所もあるけどね」

 苦笑混じりに言う杳。

「それなのに、乱心なんてことがあるのかな。人界征服なんて望んでそうもないように思えるんだ。切っ掛けがあみやの死なら、そこまで立ち戻れば何かが見えてくるかも知れない」
「何も分からないわよ」

 茅晶は頭を振る。あの場所にいたのは竜王とあみやだけだったのだ。誰もが目にしたのは、あみやが竜王の剣を胸に突き立てて事切れた後だった。

「あんたも見たんだ?」
「ええ、もう冷たくなっていた」

 どれだけの時間が経った後だったのか、分からなかった。大勢が駆けつけた時、ずっと竜王は死んだあみやを見ていたのだ。

「私が竜王と顔を会わせたのはそれが最初で最後よ。銀色の衣をまとった青年だったわ。とても冷たい顔をしていた。血の通わない冷たい顔を」

 思い出して、今でも身が震える。

「誰も見てなかったの? じゃあ竜王がやったってのは…」
「自分でそう言ったのよ。殺したのは自分だって。そしてこの世界を終わらせるのだと言って…」

 そして、戦いが始まった。竜王と竜神達との長い長い戦いだった。

「それに、竜剣を他の誰が扱えると言うの?」
「竜剣の一本は竜王が、もう一本は本当はあみやの剣だったんじゃない?」


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