第 6 章

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 結局、天橋立には電車で向かうことにした。バイクは寛也のアパートの駐輪場に、当然のように無断駐車のままだった。

 その昔、日本で三路線しかなかった連絡船のうちの一つが瀬戸大橋の開通により廃止さた。その代わり、今は新しく広々とした駅舎が立てられたものの、閑散とするばかりの駅から、杳と茅晶は列車に乗った。途中、瀬戸大橋線の快速に乗り換えて、岡山駅から新幹線に乗り継ぐ。

 まだ行程の半分も行かないうちに杳はうんざりしてきた。やっぱりバイクの方が良かったと後悔し始めた時、黙って後をついてきていた茅晶がようやく口を開いた。

「地上に五つの勾玉ありて、天に九つの竜玉を示さん。剣持つものこれを導き、鏡持つものこれを写さん」

 何を言っているのかと、うさん臭そうな表情を向ける杳を気にした様子もなく、茅晶は続ける。

「その後に伝えられたのは言葉だけ。その内、5つの勾玉は人の子である神子(みこ)達が持っていたのよ。五色の勾玉は5人の神子達に。
そのうちのひとつ、最も中心にして最も強力な神子が中央の宮、黄玉を持つ神子の一族だったわ。あみやはその家系の出で、最後の神子だったのよ」
「5人の神子?」
「ええ、勾玉を祀る為の竜の宮が各地にあって、そこに神子がいたのよ。
時折行われる祭りに来ていたのは、どれも若い乙女だったわ。でも、中央の宮は殆どが神官――男性だったのだけど、あみやだけが女の子だった。
兄である長子の『ゆの』よりも強い力を持っていたからだと聞いたわ。ゆのは妹のあみやに自らの座を譲って宮を出たから、残ったあみやが後継者となった。
まだ幼なかったあみやは竜の宮で育てられたの。本当に普通の少女だったけど、格別に竜王の寵愛を受けていたわ。
竜達の言葉を聞き、それを人に伝える術を持った巫女だったから」

「竜達って、寛也みたいなのを言うんだろ?話すことなんて普通にできるじゃないか」
「今はね。彼らは人として転生したから。でもあの戦いの前までは違った。竜は人前に姿を現すことなどなかった。その大いなる威圧感だけがいつもあっただけ。でもあみやは違った。竜王はあみやの前にだけ人の姿を取って現れるの。彼女の手を取り、彼女と言葉を交わした」

 杳の脳裏にちらつくものがあった。それは昨夜見た夢――銀色の青年と、銀色の剣が色鮮やかに目の裏に残っていた。

「あみやがあんなことになってしまって、中央の宮を継ぐ者がいなくなってしまった。竜達が戦っているどさくさに紛れて、黄玉も消えてしまった。残る4つの勾玉も統率する黄玉がなくなって、その後消息を絶ったわ」
「黄玉を誰かが持ち出したってこと?」
「あなたの家にあったのなら、あなたのご先祖様がしたことなんじゃない?」
「盗っ人みたいに言うかなぁ」
「変わらないわ。これはあみやの物だったんだもの」
「善意の第三者かもしれないし。二千年以上前の話だろ」
「そうね、そうかも知れないわね。今更追求したって…」

 茅晶は唇をかんで、しばし黙り込んだ。様子を伺う杳に、ヒョイっと顔を上げる。

「それより私にはあなたの方が不思議」


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