第 6 章

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 朝早いために誰の姿もない校庭。そこに立つ四人。

 最初に竜玉を掲げたのは寛也だった。その手の中で光を放つのは赤い玉。その光が寛也の全身を包む。感覚が――昔の感覚が甦る。身の内からあふれ出てくるのは、力と熱い熱い思いだった。炎のように赤いオーラがまっすぐに伸び、天を貫く。そのまま寛也は音も無く天空へ駆け上がった。

 同じように露、聖輝が続く。間を置いて、最後に潤也がその竜体を現した。

 校門の前でそれを見ていた杳を一度だけ振り返って、白みかけた空に消えていった。


   * * *


 四人の飛び立つのを見送って、杳は舌打ちしてポケットに手を突っ込む。指先にバイクのキーが触れた。

「電車より、ツーリングかな、やっぱり」

 呟いてくるりと方向転換する。その目の前に、いつの間に現れたものか、人影が立っていた。

「あら、それじゃあ私はご一緒できないわね」

 そこにいたのは水城茅晶だった。今までその気配すら感じられなかった少女の出現に、しかし杳は大して驚くでもなかった。

「あんた、ヒロ達がいなくなると現れるんだな」

 竜王に復讐をしようと考えている者の割りには小心な行動に、杳は半分呆れながら言う。

「竜達、嫌いなのよ」
「ふーん」

 鼻を鳴らして、杳は茅晶を見やる。

「何よっ?」
「あみやってさ、もしかして自殺した?」

 この杳の言葉に、茅晶の表情が一瞬、凍りつくのが分かった。

「あんたの持っていた竜剣、あれは…あの竜王の剣はあみや自身が扱ったものじゃないかって思ってさ」
「誰からそんなこと…?」

 茅晶は眉を吊り上げて聞き返してくる。

「そう思っただけだよ」

 さらりと答えて、さして興味もなさそうに杳は茅晶に背を向ける。

「さてと、連中を追いかけなきゃ」

 そのまま杳は校門を出ようと歩きだす。その杳を茅晶は慌てて追いかける。

「杳くんっ」

 名を呼んで、その腕を掴んだ瞬間、弾かれたように手を放した。

「きゃっ」

 小さく叫び声を上げた茅晶を不思議そうに振り返る。相手に、驚愕の表情が浮かぶのが見えた。

「あなた…何を持ってるの?」
「は?」
「それ…」

 小首を傾げる杳に、茅晶はそのポケットを指差す。言われて杳は何げなくそこに手を突っ込んで、その中にある物を取り出した。バイクのキーと、すっかり忘れていたが勾玉があった。

「それは…」
「ああ、澪兄さんからもらったんだ。竜の勾玉って言って、葵家に伝わるお宝のひとつだよ」

 そう言って、杳は茅晶に差し出す。

 差し始めた朝日に、黄色く光る勾玉だった。本物だろうかと茅晶は身を乗り出そうとする。そんな訳がないと否定しながら、指を伸ばしかけた。しかし、その手を頑として遮る感覚に襲われる。

 この感覚には覚えがあった。

 ――本物。

「葵家に伝わるものですって? どういうこと? 黄玉はあの日以来、あみやの死以来見つかっていないのに」

 一歩後ずさり、茅晶は杳を睨みつけた。


   * * *



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