第 6 章

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 朝日がまだ昇らない暗い家の中、こそこそと玄関に向かうのは寛也を先頭に、聖輝、露、潤也の順番の四人だった。時計の針はまだ5時を過ぎたばかりだった。

「ねむ…」

 大欠伸をする露。その口を、慌てて潤也がふさぐ。

「しっ。杳が起きる」
「何もここまでしなくても…」

 横から、それでも声をひそめて寛也が呟くのを、潤也がキッと睨みつける。

「説得なんかに応じるわけがないだろう、あの杳が。黙って先に行くしかないんだよ。ま、幸い杳は朝に弱いし」
「お前、よく知ってるな」
「うるさいっ、行くよ」

 あからさまに機嫌の悪い表情を向けてくる弟に、寛也は肩をすぼめただけだった。

 忍び足で玄関まで行き、音を立てずに靴をはく。チッキンのテーブルの上に手紙も置いてきた。朝の遅い杳が起きてその手紙を読む頃には、寛也達は竜王の宮にたどり着いている予定だった。

 四人はそっとドアをくぐり、鍵を閉めてからほっと胸をなでおろす。

「さ、行こうか」

 先頭を歩こうとした潤也の目の前に、ふと、人影がさした。

「こんな時間にどこへ行く気?」
「えっ?」

 見るとそこに、杳が立っていた。ふてくされた顔で腕組みをして、杳は四人を一通り見回して聞いてくる。

「全員揃って朝のジョギング?」
「あ、えーっと、そうなんだ」

 わざとらしくそう答える寛也の足を踏み付けたのは潤也だった。

「じゃあオレも混ぜてよ。どこまでジョギングするの? 天橋立?」

 しっかりばれていた。勘が良いのだろう、どうやら寝ずに待っていたようだった。相手の行動を見抜いていたのは、潤也だけではなかったのだった。

「何でだよ、昨日はいいって言ったじゃないか」
「良いわけないよ。連れて行けない。危険なんだ」
「自分の身くらい自分で守れるよ」

 玄関先で全員を通せんぼしたまま、頑として聞き分けない杳に、しかし潤也も折れなかった。

「だめだよ、絶対に、これだけは譲れない」
「じゃあ自分で行く。列車を乗り継いででも。みんな、先に行けばいいよ。オレ、自分で行くから」

 その二人の言い合いに寛也が横から口を挟んだ。

「いいじゃねぇか。現地へ行ってもこいつが竜王の元にたどり着ける訳がねぇだろう。考えてみろよ」
「…まぁ」

 寛也の言に、潤也も声を和らげる。

 竜の宮の入り口は、普通の人間には見えないようになっている。たとえ杳が寛也達の後をつけようとも、到底そこから先へは入ってこれないのだった。

「さぁ行こうぜ。どうせなら竜王の寝込み、襲ってやろうぜ」

 寛也は元気にそう言うと、杳の脇を擦り抜ける。むっとした顔で杳が睨んでいたのが分かったが、敢えて眼を合わさなかった。

 背後から杳の負け惜しみの声が聞こえた。

「絶対に追いかけて行くからなっ。竜じゃないからって、何もできないと思ったら大間違いだからなっ」
「はいはい」

 寛也はその杳にひらひらと片手を振って答えた。地団駄を踏むその様子が、背後に感じられた。


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