第 6 章
罠
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「お前、もう帰れよ」
客用の布団を聖輝と露の二人に提供して、お前の分はないと言って、寛也は杳にバイクのキーを押し付けた。
「オレも行くよ」
「誰が連れて行くと言った?」
「聖輝がいいって」
「いいわけねぇだろっ。お前は…」
言いかけて、寛也は辺りに目を向けてから、コホンと咳払いをする。
昼間の翔とのやり取りを見てしまった寛也としては、翔を心配する杳の気持ちも分からないではなかった。しかし、危険だと分かっているものを、連れて行くことはできなかった。また、同じような目に会わないとも限らない。
「そうだね、竜王の所へは危険だ。連れて行けないよ」
横から口を挟んでくる潤也の顔をちらりと見やって、杳はあからさまに顔を背ける。
「潤也に頼んでるわけじゃない」
さすがに絶句する潤也。
「翔くんは家出して人さらいするし、里紗まで連れて行かれて黙ってられないよ」
杳は食い下がろうとする相手を、寛也に絞っている様子だった。その二人のやり取りに、潤也は複雑な色の目を向けた。
「お前んち、心配してるんじゃないのか」
「心配しないよ。信用あるもん」
「嘘つけ」
「な、連れてってよ。おとなしくしてるから」
「お前がぁ?」
「絶対に、絶対に役に立つから」
何を言っても聞かない杳に、寛也は困り果てた様子で弟を振り返る。
「どうする?」
「ヒロが面倒見ればいいんじゃないのっ」
投げやりな答えが返ってきた。畳み掛けるように聞こえた声は、風呂から上がったばかりの露。
「オレ、かまわないぜ。結崎が背中に乗っけてやればいいじゃん」
「それがいいな」
興味無さそうにそう言ったのは聖輝。まともに寛也達の相手をしていると体力を消耗するだけだと、幾分悟ったような態度だった。
「と言うことで、よろしく」
嘘でもいいから笑ってみせれば可愛げのあるものを、馴れ馴れしく寛也の肩に手を置いて、杳は偉ぶった態度でそう言った。
「おいっ」
それ以上は誰も聞いてはくれなかった。
* * *