第 6 章

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「いいよ。やれるものならやってみれば。あんたにはどうせ出来ないだろうけど」
「何ですってぇ!?」
「知ってるんだ。竜神のうち四天王を除く残りの五体は戦闘能力が低いんだろ。この前、光竜が寛也の前からとっとと逃げ出すのを見たからな。ましてや竜王からしたらあんたなんか赤子同然。違う?」
「ふん、そうね。でもあなたの息の根を止めることくらいなら出来るのよ」

 雪乃はニヤリと笑う。途端、彼女の身の周りに薄く膜が張るかのように、気の波が浮き上がる。薄紫の花弁のような物が舞う。と、次にはその花弁は固まりとなって、一気に杳に向かってきた。

 はっとして身構える杳。が、それは杳を避けるように、身体にぶつかる前に四方へ散っていった。

「何!?」

 ふと、杳の手の中に光っているものが雪乃の目に入る。杳がゆっくりと開いて見せた手のひらに、薄く光を放つ勾玉があった。

「どうしてそんなものが…」

 一目見て、明らかに動揺する雪乃。しかし、彼女が戸惑っている時間は短かった。さっと里紗の背後に回り、小さく呪文のようなものを呟く。あっと思った瞬間に意識を失う里紗を抱きとめる雪乃。

「おいっ」

 呼び止めようとする杳を一度睨んで、何も答えず、雪乃はそのまま気を膨らませ、窓から外へ飛び出した。雪乃を捕まえようと、同じように窓から飛び出そうとして杳は慌てて思い止どまる。ここは二階だった。

 続けて起こった吹き飛ばされそうな気の流れに空を仰ぐと、濃紺の夜空に舞い上がる竜の姿が見えた。もう手は届かなかった。

「人質、増えたじゃないか…」

 がっくりと肩を落として呟く杳に、恐る恐る声をかけてきたのは、目の前で起こった出来事にどう反応していいのか分からないまま、呆然としていた澪だった。

「杳、今の…は?」
「翔くんの手下の竜だよ」
「手下ぁ??」

 頭上に「?」マークを大量に飛ばしながら澪がうろたえるのを、説明するのも面倒だと杳は無視する。

「仕方ない」

 澪の脇をするりと抜ける杳を、澪は慌てて呼び止める。

「どこへ行くんだ?」
「寛也達に応援を求めるしかないじゃない。ちょっと行ってくる」
「行くって、今何時だと思って…」
「当分帰って来ないかも知れないから、澪兄さん、後を頼んだよ」

 そう言って机の横のフックに引っかけていたバイクのキーを手に取る。

「って、おい…」

 何が何だか理解に苦しむ澪をそのまま部屋に残して、杳は飛び出して行ってしまった。

 玄関を出ようとして、物音に気づいてすっ飛んできた母親に取っ捕まったが、その腕を振りほどいて玄関から飛び出した。

 慌ててバイクに乗って、杳は車道に飛び出した。

「こら、待ちなさいっ!」

 後方で近所迷惑を顧みず怒鳴る母親の声が聞こえた。帰った時にまたどれだけ怒鳴られるのか、考えて目眩がしてきた。


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