第 6 章

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「おい、おい杳」

 澪の声に杳ははっと顔を上げた。

「大丈夫か?」

 すぐ目の前に心配そうな澪の顔があった。

「ごめん、ちょっと疲れてて」

 わずかに頭を振り、杳は視線を逸らす。今、何か考えていなかったかと思い出そうとして、横から声をかけられた。里紗だった。

「ね、『あまと』って何?」

 見ると興味津々の顔。

「さっき、あんたそう言ったのよ」
「知らない」

 即答していた。

「えっ、でも…」

 食い下がろうとする里紗を無視して、杳は澪の方を向く。

「それより澪兄さん、これ、預かっていい?」

 手にした勾玉を示して聞く。預かるも何も杳にやるものだと、澪はうなずいて言う。

「オレ、やっぱり…」

 勾玉を見つめてそう言いかけた時、部屋の空気が変わったような気がした。腕に鳥肌が立つような感覚に、杳は顔を上げてギョッとした。

 いつの間に入って来たのか、そこにはつい今までいなかった筈の顔があった。

「ようやく見つけたわ。まったく困った人達ね」

 肩までのストレートをさらりとかき上げ、言葉ほどの表情はまるでないように、口元に薄く笑みを浮かべた少女――滝沢雪乃が立っていた。

「あんた、この前のっ」

 里紗が片膝立てて立ち上がる。両手はファイティングポーズだった。

「あら、覚えていてくれて光栄だわ。地竜王のお姉様」
「何の用だよ。寛也達ならここにはいないっ。帰れっ」

 怒鳴る杳を横目でちらりと見て、雪乃は小さく笑う。

「私の用事があるのは彼女」

 自分に向けられた視線に、里紗がキョトンとした表情をする。

「竜王が連れて来いですって」
「翔くんが?」
「あなたも弟に会いたいでしょう。一緒に来ると会えるわよ」

 雪乃の言葉に、里紗がムッとした表情で答えようとする。しかし、それよりも早く口を挟んだのは杳だった。

「ばか言うな。一緒に来いじゃなくて、紗和を返せよっ」
「うるさいわね。がたがた言ってると竜王の縁者でも容赦ないわよっ!」

 雪乃は杳を振り返りざまに睨む。が、そんなもの等何とも思わないように、杳は余裕の表情。


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