第 6 章
罠
-1-
7/13
「おい、おい杳」
澪の声に杳ははっと顔を上げた。
「大丈夫か?」
すぐ目の前に心配そうな澪の顔があった。
「ごめん、ちょっと疲れてて」
わずかに頭を振り、杳は視線を逸らす。今、何か考えていなかったかと思い出そうとして、横から声をかけられた。里紗だった。
「ね、『あまと』って何?」
見ると興味津々の顔。
「さっき、あんたそう言ったのよ」
「知らない」
即答していた。
「えっ、でも…」
食い下がろうとする里紗を無視して、杳は澪の方を向く。
「それより澪兄さん、これ、預かっていい?」
手にした勾玉を示して聞く。預かるも何も杳にやるものだと、澪はうなずいて言う。
「オレ、やっぱり…」
勾玉を見つめてそう言いかけた時、部屋の空気が変わったような気がした。腕に鳥肌が立つような感覚に、杳は顔を上げてギョッとした。
いつの間に入って来たのか、そこにはつい今までいなかった筈の顔があった。
「ようやく見つけたわ。まったく困った人達ね」
肩までのストレートをさらりとかき上げ、言葉ほどの表情はまるでないように、口元に薄く笑みを浮かべた少女――滝沢雪乃が立っていた。
「あんた、この前のっ」
里紗が片膝立てて立ち上がる。両手はファイティングポーズだった。
「あら、覚えていてくれて光栄だわ。地竜王のお姉様」
「何の用だよ。寛也達ならここにはいないっ。帰れっ」
怒鳴る杳を横目でちらりと見て、雪乃は小さく笑う。
「私の用事があるのは彼女」
自分に向けられた視線に、里紗がキョトンとした表情をする。
「竜王が連れて来いですって」
「翔くんが?」
「あなたも弟に会いたいでしょう。一緒に来ると会えるわよ」
雪乃の言葉に、里紗がムッとした表情で答えようとする。しかし、それよりも早く口を挟んだのは杳だった。
「ばか言うな。一緒に来いじゃなくて、紗和を返せよっ」
「うるさいわね。がたがた言ってると竜王の縁者でも容赦ないわよっ!」
雪乃は杳を振り返りざまに睨む。が、そんなもの等何とも思わないように、杳は余裕の表情。