第 6 章

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「天へ通じる道?」

 訝しげな表情で聞き返す露に、寛也は軽くうなずいてみせた。

 聖輝が杳を送って途中寄り道をしている間に、寛也、潤也、露の三人は先に結崎家のアパートに帰り着いた。程なくして不機嫌極まりない表情の聖輝が帰ってきたのを、寛也は鼻先で笑ってやり過ごした。

「ああ、そう言ってたぜ、竜王は」

 人形峠で出会った翔の言葉を思い出す。自分の本拠地は天へ通じる道だと。待っていると寛也に言って去って行った彼の言葉は、果たして信じて良いものかどうか寛也には判別しかねた。

「謎解きか?」
「あの場でああいうことを言うかな、まったく」

 翔の言った言葉の内容は、あまりにも不可解だった。教えるつもりがあるなら正確に場所を告げるべきだと、寛也は内心で悪態をつく。しかし、あの場でそれ以上詳しく聞いている余裕もなかったのも確かだった。

 そこへ、お茶と茶菓子をお盆にすえて、潤也が居間に姿を現した。キッチンにまで寛也達の声が聞こえていたのだろう、すぐに口を挟んできた。

「それって、天竜王の守護宮じゃないの?」
「守護宮?」

 聞き馴れない言葉に寛也は弟の顔を仰ぎ見る。

「ほら、炎竜は九州の高千穂の宮、石竜は出雲の宮、だから竜王は中央の宮って具合に、自分の守護する宮を持っていたじゃない」
「吉備の里か」

 横から口出す聖輝に、潤也はうなずいてみせる。

「だが、天へ通じる道ってのは? 意味する所が分からないな」

 腕組みする聖輝の横で、ポツリと呟いたのは露。

「天の道…天橋立とか」

 この言葉に全員がジロリと露を見やる。慌てて訂正をする露。

「なしなし、今の、なし」

 しかし露の訂正の言葉は潤也の台詞によって無視された。

「確か竜王は幾つか宮を持ってなかった?」
「天の宮と地の宮。あいつら、参勤交代のごとく行き来していたな、確か。封じられた天への道を守護するためとか言って」

 茶菓子を鷲掴みする寛也の手の甲を軽くはたきながら言う潤也の言葉に、聖輝が思い出したようにそう呟いた。

「何だ、それ」

 何とか饅頭をひとつ手に入れて口にほお張りながら、寛也は一人意味が分からないと言った顔で聞き返す。その寛也に潤也はちらりと視線を走らせただけで簡単に説明する。

「天の宮には『封じられし者』がいるんだ。その昔、勾玉によって封印されたものがね。そこを守るために天と地の竜王が交互で守護に当たっていたんだ。その場所が今の天橋立」
「…出来過ぎた話だな」
「封じられたものの本体が、今のあの形になったものと僕は記憶しているけど。戦(せん)、本当に覚えてないの?」

 「戦」は炎竜の実名だと、何となく覚えている。が、そう呼ぶ弟に、寛也は違和感を覚え、見返した横顔に、今までと違った色を見いだす。

 思えば、潤也が覚醒してから一緒に過ごすことがなかったように思う。もし潤也が「昔の記憶」を呼び覚ましているのだとしたら、この弟をどう見ればいいのか困惑が浮かぶ。今までの潤也と違う別人になってしまうのではないかという不安が、一瞬よぎる。

「まあいい。とにかく行ってみるか」

 兄弟の不穏な空気を読んだのか、聖輝がため息混じりにそう締めくくった。


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