第 6 章

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「お前、言ってだろ。翔を止められるのは竜神四天王に頼るしかないって」

 そう言えば口走ったような気もする。

「何かおもしろそうよね。現場、行ってみたいと思わない?」
「足手まといなだけだよ」

 わくわくしながら言う里紗に、杳は冷たく言い放つ。

「あら、私なら足手まといにならないように上手に立ち回るわよ」
「どうやって?」

 里紗の言葉に、杳は自分でも引き下がりたくなかった思いが重なって、語調が強くなる。

「下手して人質を増やすだけじゃないか。もう少し考えろよ」
「んまあ、あんたに言われたくないわっ」

 あぐらをかいていたベッドの上から片足を降ろして踏みだし、里紗は頬をふくらませて見せた。その里紗と、言い返そうとする杳との間に割って入るのは澪だった。

「まあまあ、二人とも」

 里紗はプイッとそっぽを向いた。

「とにかく、ここで待つしかないんだよ、オレ達は。何の力もないんだから」

 諦めたようにそう言う杳に、らしくないと澪は思った。

「やれやれ、まったく、我が弟ながら。世界征服なんて言うような奴じゃないんだけどなぁ、翔は」
「うん、澪兄さんならまだしも」
「ああ、俺なら…」

 いいかけて、澪は杳を睨む。

「ま、私の弟は昔から変な奴だったけどね」

 里紗が思い出したように言った。

「あいつ、時々、妖精を見てたのよ。空中にありもしないものを見て、一緒に遊んでたの。気味悪いったら」

 そう言って里紗は眉をしかめる。その里紗の横顔をしばし見やって、杳が答えた。

「紗和は翔くんの言うとおり、竜だよ」
「は?」
「翔くんのと同じオーラが見えた」
「あんたも変わったこと言うのね。そんなもの、見えないわよ」

 里紗はそう言って、思いっきり不審そうな表情を杳に向けた。

「そう言えばお前も昔から…」
「妖精は見えないけどね」

 澪が思い出したように言うのを途中でさえぎって、杳は肩をすぼめて見せる。

 澪には覚えがあった。幼い頃には、翔よりも杳の方がよっぽどおかしな言動をしていた。見えないものを見えると言い、犬猫と真剣に話をしている姿に、神経質な子どもの空想だと、周囲は相手にしなかった。

 もう随分昔のことなので、すっかり忘れていたが。

「お前にやるよ」

 澪はごそごそと自分のカバンの中から布にくるんだ物を取りだして、杳に差し出した。布を開いたそこに、先日東京の澪のアパートで見た勾玉があった。
 自分の前に差し出されたそれと、澪の顔を見比べて、杳は眉をしかめる。

「いらないって、言わなかった?」
「いいから、持ってろ」

 澪は手の中のものを半ば無理やり杳の手に持たせる。

 杳の手の中で、それは蛍光灯の光を受けて、わずかに色を放っていた。

 以前に手にした時よりも熱かった。

 ふと、昨夜見た夢がちらつく。

 胸の奥に込み上げてくる得体の知れない思いに、杳はとっさに勾玉を取り落としていた。

「…あまと…」

 くらりと、視界が舞った。気分が悪いと思った瞬間、青銀色に輝く空が一面に広がって見えた。

「おい、杳…?」

 澪の自分を呼ぶ声が遠くなっていった。


   * * *



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