第 6 章

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 帰宅するなり杳は、すっ飛んできた来た母親にこっぴどく叱られた。あの夜、飛び出して行った翔を追って家を出てから、一度も帰宅していなかったのだ。

 反省の言葉をつらつらと言わされた後、ようやくにして解放されたのはゆうに1時間は経った後だった。

「よぉ、遅かったじゃないか」

 二階に上がって部屋に入ると客人が待っていた。その人物に、杳はピクリと顔を引きつらせる。

「来てるんなら、弁護くらいしてくれてもいいんじゃない、澪兄さん」

 そこにいたのは、東京の大学に行っている筈の従兄弟の澪だった。翔の実の兄で、杳が翔の行方を追うための手掛かりにならないかと彼の下宿を訪れたのは、ほんの5日前のことだった。

「バカ言うなよ。口出しなんかしてみろ、俺まで一緒にお説教じゃないか。おととい、こっちへ来た日も、週に一度は連絡を入れろとこんこんと諭されたんだぜ」

 澪は大きくため息をつきながらそう言った。

「仕方ないんじゃない? 一人前に就職するまでは面倒見るつもりでいるらしいから。ところで何でここにいるの?」

 澪ともう一人、新堂里紗の顔があるのを見下ろして、杳は不思議そうに尋ねた。

 東京の澪の下宿に置いてきた筈の里紗。その存在はすっかり忘れかけていたが、北海道に帰ったのではなかったのかと思った。その杳に里紗はキーの高い声で怒ってみせる。

「何言ってんの。岡山の民話を調べろって言ったの、あんたでしょ?」

 里紗に言われて、本当にすっかり忘れていたことを思い出した。そう言えばそんなことを言った気もする。

「まったく、ホント、散々だったんだから」

 そう言って里紗は杳のベッドの上にあぐらをかいた格好のまま、ふんぞりかえる。こんな所までよく、澪についてきたものだと感心した。その里紗に苦笑を浮かべてみせてから、澪に問う。

「で、何か分かったの?」
「ぜーんぜん。それこそ、古墳より古い話だろ。大学の図書館に入れてもらったが、特にこれと言って目ぼしいものはなかったし」
「足がもう、棒のように細くなってしまったわ」

 引用を間違えていることに気づいた様子もない里紗を杳は無視する。

「ところで、お前の方はどうだったんだよ」

 今度は澪が杳に聞いてきた。

「オレ?ん、まあ、一応」
「何か分かったの?」

 里紗が前のめりになる。

「頼めそうな連中に頼んできた。翔くんを止められそうな奴らに」

 杳としては、自分の手が届かない以上、これしか方法はなかった。寛也達に任せてしまうことに、自らの責任を放棄してしまったかのような印象も持っていたが。

「四天王か…」

 ふと、澪がつぶやく。


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