第 6 章

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 杳の検査結果は極めて良好だった。実際に起こったことを知っている寛也からすれば、このまま退院させてもいいものかと疑問に思いはしたが、その理由を潤也に聞かれてさすがに言葉を返せなかった。

 それよりも、杳自身がこんな所に長居はしたくないと例によって激しく主張したので、とっとと退院させることにした。

 駐車場までやってきて、聖輝は全員を見回してため息混じりに言った。

「5人乗りだけどな、一応」

 その言葉の裏の意味を素早く読み取ったのは寛也だった。

「分かった。自分で帰れってんだろ」

 くるりと振り返り、後ろに立っていた露に声をかける。

「先に帰ろうぜ」
「えーっ、オレ、疲れてんのにぃ」

 ぷくっと頬を膨らませて不平をこぼす露の頬に、寛也は軽く拳をあてる。

「ずーって寝てた奴が何を言うか。来いっ」

 特に親しい間柄でもなく、あの洞窟で出会って、東京でもう一度顔を見た以外、ろくに口を利いたこともなかったが、すっかり兄貴分の気分で、寛也は露の背を押した。ふてくされつつも、露は強く反抗するでもなく、寛也に従う。

 その寛也の袖を引っ張る者がいた。振り返ると杳がいた。

「あのさ、潤也、何か変じゃない?」

 小声で、寛也にだけ聞こえるように聞いてきた。視線が、ちらりと、聖輝と車の側で打ち合わせをしている潤也に向いていた。

「どこが?」
「どこって…何か、何となく」
「ばーか。気のせいだって」

 不審そうなままの表情を向ける杳の頭を軽く小突いて返す。

「ま、強いてあげれば、顔色が少し良くなってる」
「えっ?」
「あいつ、生まれつき身体、弱いからな。覚醒してから、元気になったんじゃないか」

 言われてみればそうだけどと言いながらも、納得のいかない様子の杳だった。

「気にするなって。双子の俺が何もないって言ってんだからよ」
「ヒロはノーテンキだから」
「お前なぁ」

 他のものなら掴み上げたところだったが、寛也は何とか堪えた。相手は病み上がりだと自分に言い聞かせて。

 結局、聖輝の車で送ってもらうこととなった杳以外、寛也達は夕暮れを待って自力で帰宅することとなった。


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