第 5 章
息づく大地
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「貴方自身を危険な目に会わせても目覚めない。それなのに何故あの時は力を使ったんですか? 何かきっかけがあった筈ですよね」

 問われて紗和は、つい今し方同じように優に言われた言葉を思い出した。東京の地下で地震があったあの時、何があったのかを。何をしていたのかを。

 あの時、剣を振るっていた少女と、それを止めようとしていた杳。危ないと思った。助けたいと思ったのは――。

 いや、自分にそんな力などある筈がない。

「僕達が貴方を見つけた時に貴方と一緒にいたのは破天荒なお姉さん。それから風竜に、杳」

 翔の言葉に顔を上げる紗和。

「貴方のお姉さん、連れてくれば分かりますか?」
「姉は関係ないっ」
「関係ないことないでしょう。今生では姉弟なのだし。貴方も彼女なら身を呈して守るみたいだから」

 そう言ってわずかに笑みを浮かべる。ぞっとした。

「君は、大切な人を殺した人間を滅ぼすのだと言ってたよね」

 翔は紗和の言葉に一瞬、瞳を動かす。が、それもすぐに冷たい色に覆われる。

「僕にだって守りたい人はいる。分かるだろう。大切な人を失えば誰だってつらい。それを盾にするのこそ、卑怯だよ。第一、君の目当ては僕だろう。姉は関係ない」

 理屈をいくら重ねても聞かない相手だと言うことは、もう十分分かっていた。

「じゃあ覚醒したらどうですか。目の前の現実にいつまでも蓋をしたままで、逃げてばかりいないで。あの時、全てを終わらせなかったのは貴方の責任です」
「何の…?」
「僕はもう一度あの戦いを繰り返すつもりです。最後までやりましょうよ。役者はもうすぐ揃いますから」
「役者って…」
「それまでに覚醒してもらわないと困るんですよ」

 そう言って笑顔を見せる翔に、紗和はひどく違和感を覚えた。

 読めない表情と、決して笑っていない笑顔。心の中で何を考えているのか、紗和の目にはさっぱり判別できなかった。


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