第 5 章
息づく大地
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 結局紗和は再び地下へたたき込まれることとなった。

 閉じ込められて、考える時間ができた。

 里紗のことが心配だった。あんな身勝手で我がままで自分のことしか考えない姉ではあるが、一応、たった二人きりの姉弟である。

 これから翔は一体何をするつもりなのだろうか。まさか、里紗に危害を加えるなどということはあるまいか。里紗は関係ない。むしろ――。

 ふと、紗和は思い出す。

 あの時一緒にいたのはあの竜剣を持った少女と杳だった。すぐ近くに里紗と潤也がいたことを知ったのはその後の話である。

 うごめいた大地に、地下から天井をも貫いた程の変動に、自分達は無傷だった。足場を失って転げ落ちそうになる杳とは対称的に、自分の足元は何故か安定していた。

 あの時、強く思ったことがあった。

 剣が泣く音が聞こえた。

 竜剣で殺される人を見るのが怖かった。やめさせたかった。助けたかった。

 目の前にちらついたのは、竜剣を胸に突き立て、息絶えた白い衣の少女。

 あの幻想は――。

 思いに落ちそうになって、紗和は慌てて首を振る。自分はそんなのじゃないのにと。


   *  *  *


「何事もなかったみたいね」

 しばらくして姿を現した雪乃に翔は一瞥を加えただけで、興味なさそうにすぐに目を逸らした。

「巻き添えを恐れるなら、今から戦線離脱をお勧めします」
「あら、私は戦力外?」
「戦力になると思ってるんですか?」

 翔のさらりと口をつく言葉に、雪乃はむっとしながらも、言い返すことはなかった。

「まあいいわ。危険が迫れば逃げてOKってことよね」

 翔はそれには応えず、話題を変える。

「新堂さんのお姉さん、いたでしょ? 彼女を連れてきてもらえますか?」

 突然の言葉に雪乃はギョッとする。

「え…アレを?」
「それくらいできるでしょ?」
「本気?手を焼くわよ」

 言葉を交わしたのはほんの1時間程度だったが、言葉の節々に現れていた里紗の性格にたじろいでいなかったのは、多分この翔だけだったのではないかと、雪乃は思った。

「サルグツワをはめて、手足を縛り上げて結構ですから、なるべく生きたままお願いします」

「…すごいこと、言うわね」

 平気な顔をして吐く翔の台詞に呆れながらも、雪乃は承諾した。

 翔が何を考えていようと、自分には関係ないと思った。自分が最初に望んだ通りの結末になればそれで良かった。

 光竜が仲間から外れようと、闇竜が敵の手にかかり封じられようとも、自分には関係なかったから。



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