第 5 章
息づく大地
-4-
5/7
次に眼を開けた時、その場所に優の姿はなかった。ギョッとして、翔を見やると、優のいた場所を表情のないまま見下ろしていた。
ゆっくりと振り返る翔。
「今のは…彼はどうなったの?」
「さあ。手加減はしましたけど」
何が何だか分からないまでも、無茶なことをしたのだとは紗和にも理解できた。呆然とする紗和に、翔は冷たく言い放つ。
「仲間が次々に倒れていっても平気なんですね」
「え?」
けげんそうな顔を向けると、翔はわずかに表情を和らげた。
「まず最初に命を落としたのは炎竜。手加減知らずで無鉄砲に立ち向かってきて。四天王と呼ばれた連中も炎竜が欠ければ残りは烏合の衆だった。ましてや他の5体など。それなのにあなたは最後の最後まで守りに回った。そして最後に背後から術をかけてきた。卑怯だったと思いませんか?竜王と並び称される地竜王が。そして今回もまた――」
「何のことだよ?」
自分には覚えのないことだった。
「僕は貴方に負けない自信があります。だのにいつも貴方は逃げてばかりだ。このまま覚醒しないまま叩き潰してもかまわない。だけどそれじゃあ僕の気がおさまらないんですよ、地人」
見返してくる翔の眼は真剣だった。しかしどこか悲しげにも見えた。
「何度言っても聞いてくれないんだよね。人違いだって。僕は何も知らないのに」
ため息混じりに言ってみる。
「自分で封じただけですよ。でももうその封印は解かれつつある。一度、力を使ったでしょう」
確信に満ちた翔の言葉。
「地竜王の封印は本人にしか解けない。貴方が封じたものは貴方自身の力と記憶、それから…」
ふと、言い淀む。深い影がその瞳によぎる。
「いくら言われても知らないものは知らないよ。僕は普通の高校生にすぎないよ」
もう何度この少年を相手に言ったか知れない言葉。翔はいつものとおり聞く耳を持たなかった。