第 5 章
息づく大地
-4-

1/7


 静かな地下室に、わずかに人の気配を感じた。

「誰?」

 光さえもささない場所。あるのはただぼんやりとした行燈の明かりのみだった。

 いやに古風な部屋に一人座したまま、紗和は何をするでもなくその明かりを眺めていた。

 その中に、自分のものでない息遣いを感じた。顔を上げて見たそこに立っていたのは、見た覚えのある顔だった。

「君は…」

 先日まで竜王・翔のもとにいて、突然に離脱したと聞かされた仲間のひとり、現世名を、確か杉浦優と名乗っていたのを紗和は思い出す。
「助けてやるよ」

 薄明かりでは、そう言う彼の表情は読めなかった。ぶっきらぼうにそう言う彼に、紗和はどうしていいのか戸惑う。

 返事のない紗和に、優はいらいらした様子でもう一度声をかける。

「外に出たくないのか?」
「でも、君は…」
「竜王のいない今しかチャンスはないぜ。逃げなくていいのか?」

 紗和は慌てて立ち上がった。

 彼はてっきり逃げ出したものと思っていた。そう聞かされた。それなのに、何故戻ってきたのだろうか。翔は逃げた者を負うことはしなかったのだから、そのまま身を引いても良かったはずなのに。

 優の手により、翔の結界はあっさりと解かれた。その様子を見ながら、逃げ出そうと思えば、多分人の手を借りなくても逃げ出せるのだと、翔の言った言葉を思い出す。

 結界を出て階段をのぼると、外は和風な続き間があった。

「ここは…」

 人が住んでいるのを感じさせない、新築のような柱と襖。空気さえもひんやりとした色をしていた。

「竜王の作った異次元空間だ。あのチビ、何でもないような顔をして簡単にこんな物をつくりあげやがって」

 そう呟くように言う優の顔は、腹立たしげにしかめられる。


次ページ
前ページ
目次