第 5 章
息づく大地
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静かな地下室に、わずかに人の気配を感じた。
「誰?」
光さえもささない場所。あるのはただぼんやりとした行燈の明かりのみだった。
いやに古風な部屋に一人座したまま、紗和は何をするでもなくその明かりを眺めていた。
その中に、自分のものでない息遣いを感じた。顔を上げて見たそこに立っていたのは、見た覚えのある顔だった。
「君は…」
先日まで竜王・翔のもとにいて、突然に離脱したと聞かされた仲間のひとり、現世名を、確か杉浦優と名乗っていたのを紗和は思い出す。
「助けてやるよ」
薄明かりでは、そう言う彼の表情は読めなかった。ぶっきらぼうにそう言う彼に、紗和はどうしていいのか戸惑う。
返事のない紗和に、優はいらいらした様子でもう一度声をかける。
「外に出たくないのか?」
「でも、君は…」
「竜王のいない今しかチャンスはないぜ。逃げなくていいのか?」
紗和は慌てて立ち上がった。
彼はてっきり逃げ出したものと思っていた。そう聞かされた。それなのに、何故戻ってきたのだろうか。翔は逃げた者を負うことはしなかったのだから、そのまま身を引いても良かったはずなのに。
優の手により、翔の結界はあっさりと解かれた。その様子を見ながら、逃げ出そうと思えば、多分人の手を借りなくても逃げ出せるのだと、翔の言った言葉を思い出す。
結界を出て階段をのぼると、外は和風な続き間があった。
「ここは…」
人が住んでいるのを感じさせない、新築のような柱と襖。空気さえもひんやりとした色をしていた。
「竜王の作った異次元空間だ。あのチビ、何でもないような顔をして簡単にこんな物をつくりあげやがって」
そう呟くように言う優の顔は、腹立たしげにしかめられる。