第 5 章
息づく大地
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飛び出して行こうとするが、とても動けなかった。
杳の体が地面を転がり、巨木に体を打ち付けて止まるのが見えた。
「杳兄さん…」
翔の気は杳を取り込もうとしていた。が、制御ができないままで、翔は杳に近づこうとする。
「バカ、近づくなっ」
怒鳴る寛也。
「杳を押し潰す気か?」
ビクリとして立ち止まる翔。
見やった杳は地面にうつ伏せたまま動かなくなっていた。
かつての記憶が翔の脳裏によみがえる。次第に冷たくなっていった少女の体。何度も何度も繰り返す、悪夢。
「いや…いやだ…っ!」
胸が苦しくなる。
「わっ、ばかっ」
翔の気が再び強くなる。
泉のように翔の身からあふれ出ては、止まらなかった。
寛也はついにその気に吹き飛ばされる。何とか地面にしがみついて止まり、舌打ちする。
何て力。
たかだか気の放出だけでこれだけの威力。
先日自分達が吹き飛ばされた苦い経験がよみがえる。
翔の、杳を呼ぶ声が聞こえた。
寛也はそれでも何とか上体を起こす。荒れ狂う翔の気。永遠に終わらないのではないかと思われるくらいの強さに、寛也は何とか身を保護するバリアを張る。
見ると、翔の繰り出す気の中心に、まるで幼子のように震える姿があった。
泣いているかのように見えた。
自らの気を止めようとしてもがく姿が哀れで、とても竜王の名をいただく者には見えなかった。
その見つめる先には、倒れたままで動かない杳の姿があった。
ふと、その杳の周りの空間が僅かに歪んで見えた。
「何だ…?」
不審に思って近づこうとするが、それよりも先に翔の声が耳に入った。