第 5 章
息づく大地
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見つめる杳の瞳の奥に宿るもの――ずっと昔から感じていたものの正体が分からなくて、でも、ひどく焦がれたいた。切ないくらい、なつかしい思いがそこにあった。
この人なら自分の失った心を埋めてくれそうな気がする。
手を伸ばしてもいいのだろうか。もう一度、手を取っても――。
遠い記憶の、大切だった人。愛して、必ず失う。いつもいつも置いて行かれる。心に満ちる愛よりも、失うことの方が悲しくて。失うくらいなら初めからいらない。もう誰も愛さない。そう心が叫んだ遠い昔。
だのに。
この手の温もりは何なのだろうか。心がなおも求めるのは何故なのだろうか。
「もう、僕を置いていかないで」
ふわりと、翔の体から揺れ立つオーラ。ゆっくりと杳の身を包み込む。杳はその気に体をゆだねようとする。その時。
「杳っ!」
声が聞こえた。途端、翔のオーラはかき消えた。
振り向くとそこに立っていたのは寛也だった。集合時間にはまだ間がある。多分、今朝からの杳の様子が気になって、帰って来たのだろう。
「まさかと思ったけど、お前、バカじゃねぇか?」
寛也は翔に警戒しながら、ゆっくり近づいてきた。
「身代わりなんて誰にもできねぇし、そんなもの求めたって傷口が広がるだけだ。お前ら二人そろって大馬鹿だ」
「バカバカって、人の気も知らないで」
邪魔をするなとばかりに返してきたのは杳。
「分かってるさ。お前の目的は翔を止めることだろ。その為になら自分を差し出すことなんか何とも思っていない。お前にとってその僕ちゃんがそれだけ大事なんだってこともな」
寛也の言葉に驚いたのはむしろ翔だった。
「だけど、そいつの追っているのはお前じゃなくて、とうの昔に死んじまった奴なんだ。お前じゃないんだぞ」
「うるさいなっ。ヒロには関係ないだろっ!」
叫ぶ杳の横で、翔がつぶやく。
「違うよ…」
「え?」
振り返る杳から顔を逸らして、僅かに震える体。
「違うよ、僕は…杳兄さん…」
と、翔の体からふらりとオーラが浮き上がる。ゆっくり揺れ立ったかと思うと、いきなり大きく膨らんだ。
「何!?」
気の力の膨張だった。
それだけで吹き飛ばされそうになる寛也。足を踏ん張って、はっとする。翔のすぐ側にいた杳がその気に吹き飛ばされ、あっと言う間に地面に叩きつけられる姿が目に映った。
「杳っ!」