第 5 章
息づく大地
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「甘かったな。術を使うならもう少しうまくやれ」

 聖輝の一撃を浴びて、膝をつく辰己を見下ろしながら、聖輝は彼に近づく。

「ふん、まあいい。これは竜王からの挨拶代わりだ」

 聖輝の攻撃を受けた胸を片手で押さえながら、ゆっくりと顔を上げてニッと笑う辰己。

 と、聖輝の視界が歪む。わずかに目眩を感じた。

 しまったと思った時には、墜落感に襲われた。辰己の幻術にはまったのだった。

 侮っていたのが不覚の原因と、自分を戒めようとしたその時、不意にそれは辰己の叫びとともに途切れた。

 一瞬のこととは言え、こうも容易くはまってしまう自分の未熟さに腹が立った。

「余り調子に乗らない方がいいんじゃない?」

 冷静な潤也の声が飛んできた。聖輝は、一瞬、自分に向けられたものかと思った。

 見ると、体に無数の傷を作り、うなだれる辰己の姿があった。そしてその反対側に潤也が立っていた。白いオーラがゆっくりと揺らめいていた。

 頭を振って立ち上がる聖輝。

「どうしようか、彼。ここで始末しておいた方がいいみたいだけど」
「始末って…」

 さらりと言ってのける潤也の言葉を、聖輝は不快に思う。

「竜王につく者を放っておくわけにはいかないし。今みたいに足元をすくわれることもあるだろうから、始末しておくに越したことはないって意味」

 ちらりと聖輝に一瞥を加え、すぐに辰己に視線を戻す。

「それとも見逃す? 僕はどちらでもかまわないんだけど」

 潤也がどこまで事態を認識して、どこまで協力的なのか聖輝には判断しかねた。どちらにしても、辰己達に対しての、かつて仲間であったと言う意識は持っている様子はなかった。

 辰己を見やると、その場にうずくまっていた。傷自体は大して深くはない様子だったが、数が多く、一見、傷だらけで血まみれだった。

「しばらく封じておくことはできないか?」
「トップを倒せば取るに足らないってこと? いいよ」

 潤也はそう言うと、すぐに小さく呪文を唱える。

 これが、もう一方の地竜王の片腕とも称された風竜。同じ四天王と言わていても、自分とは随分違うものだと改めて思う。

 風竜だけではない。炎竜、石竜にしてもそれぞれに性質が異なる。お互いに不足する所を補い合えば、竜王とも互角に戦えるだろう。そんな気がした。

「あまり長持ちはしないけど、しばらくは竜体にも戻れないよ」

 そう落ち着き払った声で潤也は言った。


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