第 5 章
息づく大地
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「お前、正気じゃないな」
聖輝の問いに露はニッと笑う。
「正気って、竜王に逆らう方が正気じゃないよ」
あの洞窟での言葉とはまるで逆だった。
これは天竜王の仕業なのか。とすると、何らかの術にかかっているものと見て良いだろう。
どうすれば解けるのだろうか。
聖輝は思い出そうとする。
天竜王の使っていた術には限りがあった筈。もともと天竜王は力と技に秀でていた。その反面、地竜王と比べると術力に乏しい所があった。
が、露は考えている間も与えてはくれなかった。単純な投石とは言え、次々に襲って来られたのでは避けるだけでも一苦労だった。
「目を覚ませ、石竜!」
パシパシと石が弾かれる。その石の隙間、ふと、露の背後にひとつの影がちらつくのが目にとまった。
その聖輝の視線に潤也が気づいた様子を見せた。
途端、彼は一瞬で移動していた。その影の背後に姿を現す。
「何!?」
驚いた相手は、とっさに身をひるがえす。岩陰から追い出された彼は聖輝達の前に姿を見せる。それは、もう一人の竜王の手先、闇竜・和泉辰己だった。
辰己はいまいましそうに潤也を見やる。
「幻術か」
光が人を導くものなら、闇は人を惑わすものだ。露を操っていたのは辰己だったのだろう。無防備になった辰己に、聖輝は手に集めた力を放射する。
聖輝の攻撃に、一瞬にして辰己の幻術は解けた。と同時に、視界の端でパタリと意識を失って露が地に伏すのが見えた。