第 5 章
息づく大地
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 薄明かりの中、聖輝にそう言ったのは寛也と同じ顔をした少年だった。顔は同じだが、持つ雰囲気はまるで異なる。聖輝はその彼に得心する。

 それは、地竜王と同じく、雪乃の呼びかけに答える事なく、あの竜の谷の洞窟に姿を現さなかった最後の竜――風竜。自分の存在さえ容易に消し去ることを得意としていた事を思い出す。

「結崎潤也…?」

 名を呼ばれて彼は、軽く目でうなずいて見せた。

「東京で竜王にやられた後、それぞれ自分の宮のあった場所で体を休めた。だけど竜王はそんなこと初めから見通してたんだ。僕は竜王が来るよりも先に目覚めたから何とか逃げおおせたけど」

 ピシピシ音を立てて割れて行く大岩を見上げて潤也は語った。

「…よく、無事だったな」

 わずかに疑うような目を向ける聖輝に、潤也は苦笑で返す。

「無事でもなかったんだけどね。もう一度治癒するのに手間がかかっちゃって」

 双子で同じ顔をしていて同じように笑っても、随分印象の異なる兄弟だと聖輝は思った。そう、持っている気が違うのだ。それぞれの竜体が炎と風にたとえられるように、内に秘めた性質を全く異にするのだった。

「僕の時と違って、ここは既に竜王の手が回っている。下手に目覚めさせると…」
「しかしこいつは味方だろ」
「そう思っていると痛い目にあうよ」

 その時、大岩がまっぷたつに割れた。反射的に二人は後方へ飛びのく。

 地響きとともに土煙を上げて崩れる大岩。その中心に、ゆらゆらと立つ姿が現れる。

「石竜…」

 それは見覚えのある少年、水穂露だった。しかし、潤也の言う通り、どこか様子が変だった。かつて竜の谷で会った気の良い元気小僧的な影が伺えなかった。

「気をつけて」

 横から潤也が声をかけてきた。

 こちらに気づいて、ゆっくりと歩を進めてくる露。

「遅かったじゃない。待ちくたびれたよ。おかげで寝返る気分になったかな」

 冗談のように言って、小さく笑む。同時にガタガタと地鳴りがした。

「眠っている間に何か昔の力が戻ったみたいだ。少し、試してみたいな」

 プスッ、プスッと地面の割れ目から吹き出すものががあった。普通は目に見えない、しかし、聖輝には感じられた。これは――。

「放射線?」

 目の端に露の笑むのが見えた。途端に無数の小石が飛んできた。避ける間がないと、受け身を取ろうとする聖輝の前に、とっさに張られる風のバリア。聖輝ごとかばうそれは、潤也の作り出したものだった。

「やるじゃない。さすがは風竜。攻守ともにバランスの取れた四天王のリーダー。でもね、オレ、あんたのそういう完璧な所、好きじゃなかったんだ」

 言うと同時に左右から石の束が潤也めがけて飛んでいった。あやうくそれを避ける潤也。その足元から、プスプスと吹き出すもの。


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