第 5 章
息づく大地
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「うるさい女だな。こいつを目覚めさせるのに精神集中がいるんだ。近づくな」


 威圧的にそう言う聖輝に雪乃は尚も食い下がる。

「せめて礼のひとつくらい言ってもバチは当たらないと思うけど。こんな山奥までわざわざ案内してあげたのよ」
「礼?」

 ジロリと睨む聖輝。

「そう言えば大将の命令とか言ってたな。お礼参りになら行ってやる」

 その時、雪乃の堪忍袋の尾が切れた音がした。

「貴方、サイテーね。光竜と言い、炎竜と言い、風竜といい、ほんっと、男ってこんなのばっか」
「!?」

 頭にきて、すっかりご機嫌斜めの雪乃はくるりと方向転換して帰ろうとする。その背中に向かって聖輝はもう一声掛ける。

「おい」

 怒ったままの顔で振り向く雪乃。

「言葉の使い方、もう一度勉強し直してきた方がいいんじゃないの?」
「今、風竜って言わなかったか? あいつの居場所も知っているのか?」

 そう聞かれて雪乃は、そのままの表情で口の端だけ吊り上げる。

「さあね、知らないわ。それより今はすることがあるんじゃないかしら。炎竜の時みたいに自分で目覚めると、力の方向を見失うこともあるわよ。ここ、どこだと思ってるの?」

 ウラン鉱。そう大量のものがあるわけではないが、それでもこんな場所で爆発でもあった日には、近隣の町は大変な被害を被るであろう。

 舌打ちする聖輝に、ようやく雪乃は怒りの表情を解く。

「じゃ、私はこれで。精神集中の妨げになったら申し訳ないから」

 わざと優雅な足取りで、雪乃は元来た道を帰って行った。お互い、印象はさらに悪くなっていた。

 気を取り直して聖輝は大岩に向かう。僅かながら鼓動が強く感じられるようになっていた。遅かれ早かれもうじき目覚めるように思えた。聖輝は岩肌に両の手のひらを当てる。伝わる鼓動。導き出すにはほんの少し、自分の力を与えてやれば良い。全ての母なる力の源を司る水の安らかなる流れを。

 トクントクンと脈打つ気。

 ピシッ。

 程なく岩に亀裂が走った。目覚めまでもう少し。聖輝はそのまま自分の力を送ろうとする。と、その時のことだった。

「待って」

 どこからか制止の声が聞こえた。仰ぐと、岩の上に人影が見えた。今の今まで何の気配も感じられなかったことに聖輝は身構える。

 その影は聖輝の見ている前で身軽にひょいっと岩の上から飛び降りた。聖輝よりは多少年少の、見覚えのある顔がそこにあった。

「お前…」
「ダメだよ。彼は既に敵の手の内」


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