第 5 章
息づく大地
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「と言ってもな、雲を掴むような話だ」

 一人ごち、聖輝は足を止めた。

 寛也達と別れて左の道を選んだものの、この広い中国山地、本当に石竜を捜し出せるかどうか自信はあまりなかった。

「ま、仕方ないか」

 他に方法がない以上、足を使って捜すしかなかった。聖輝は気を取り直して歩き始める。

 萌え立つ木々。澄んだ空気。良好の天気。鳥のさえずり。

 前途は多難に思えたが、それでも気分は良かった。

「悦に入って歩いているところ、申し訳ないんだけど」

 ふと、背後から声を掛けられた。先程からわずかに気配は感じていたものの、敢えて知らん顔をしていた相手だった。

「何の用だ?」

 振り返り様に聞く。そこには滝沢雪乃が立っていた。山に入るには随分軽装な雪乃は、言葉のわりには申し訳なさそうな表情はこれっぽっちもなかった。

「迷った子羊が道を尋ねているように見える?」

 ふざけた物言いに、聖輝は眉の根を寄せる。

 どうせ放っておいても大差ないと知らん顔をしていた。話しかけられても面倒なだけだと思って。つけられていても気にする程ではないと。それなのにわざわざ声を掛けてくるとは。

「天竜王の命令か?」
「それ以外にないでしょ?」

 肩をすくめる雪乃。

「それにしても意外よね。貴方は参戦しないのだと思っていたわ。いつも冷静な水竜の瀬緒にしてはちょっと無謀じゃない? 竜王に刃向かうなんてね。まさかあの熱血炎竜の口車に乗ったって訳でもないでしょうに」
「どうだかな」

 聖輝はあいまいに答え、背を向ける。

「ちょっと、話は終わってないわよ」
「話すことなどない。とっとと失せろ」
「あら、随分な言い方じゃない。私は竜王の命令であなたをつけているのよ」

 雪乃の言葉に聖輝は立ち止まる。ゆっくりと振り返り、うさん臭そうな表情を向けると、雪乃はにっこりと笑みを浮かべる。

「もう少し警戒してほしいわね」
「ひとり、昨日まで俺の近辺をうろついていた奴がいた筈だが、奴には逃げられたのか?」

 「竜王」の名を簡単に口に出して、相手を威圧しようと考える雪乃の態度が気に入らなかったので、聖輝はそう切り返す。聖輝の言葉に思ったとおり雪乃は不快そうな表情を浮かべ、吐き捨てるように言う。

「ふん、どうせ雑魚だわ」
「竜王さえ味方につけていればいいってことか。お前の本当の目的は何だ? まさか本当に人界征服なんて言うんじゃないだろう」

 睨みつける聖輝に、雪乃は動じない様子で返す。

「ふふっ。それ以外に何があるって言うの。人間なんて馬鹿な生き物だわ。みんな、滅んでしまえばいい」

 鼻先で笑いながらそう言う雪乃に、表情はなかった。

 いずれにしても今はここで雪乃なんかにかかわっている時間はない。石竜の捜索の方が優先だった。聖輝は再び雪乃に背を向けるとそのまま歩きだす。

「ちょっと待ってよっ」

 雪乃は慌てて聖輝を呼び止める。

「石竜の居場所、知りたくないの?」

 聖輝はぴたりと、歩みを止める。何か企んでいるのは丸分かりだった。分かってはいたが、もう一度雪乃を振り返る。

 雪乃は立ち止まる聖輝の元へ、とんとんとんと岩場を跳ねるようにして軽く駆け寄り、彼を見上げる。

「そんな怖い顔しないで。本当なんだから」

 雪乃はそう言って、意味深な笑みを浮かべた。


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