第 5 章
息づく大地
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 それではと行きかけて、寛也はふと立ち止まり、とって返す。

「何?」

 まだ不機嫌そのものの杳が睨んでくる。それに苦笑しながら。

「お前、あんまり真剣に考え過ぎるなよ。竜王のこともあみやのことも。分からないことは仕方がないことなんだからさ」

 言われて、杳の表情が変わる。やはり気にしていたのだった。

「どっちかってーと、さっきみたいなのの方が俺はイイと思うぞ」

 寛也は言いながら、平手を自分の頬に押し当て、叩くフリをする。杳の顔に少しだけ朱の色が浮かぶ。

「ばっかじゃないの。それで励ましてるつもり?」
「まあな」

 にまにまと、寛也は不遜な笑みを浮かべる。

「うだうだ言ってないで早く行けよっ! 日が暮れるぞっ」

 そう怒鳴る杳に、寛也は手を肩の上まで上げて、ひらひら振りながら背を向ける。

「はいはい。しっかり留守番してろよー」
「ったく…」

 寛也なりに心配してのことだと杳も気づいた。だからそれ以上言わなかった。

 5月の風が、木立の隙間を抜けてそよいで行く。それを見上げて、杳はまぶしそうに目を細めた。

 本当に分からないことなのだろうか――昨夜からずっと考えていた。考えれば答えは出て来そうな気がした。自分は「それ」を知っているのではないだろうか。

 でも、何故そう思う? 分からない。だけど、何かが、自分の中の何かが、心の奥底でざわめいている。

 もしかして、自分は知っているのではないだろうか。「本当」が何なのかを。

 風がそよぐ。

 どれくらい考え事をしていたのか。ふと、何かの気配が感じられた。何げなく振り返って、杳はそこに意外な人影を見つけた。

「…翔くん…」

 新緑に眩しい光の中、銀色のオーラに包まれた少年がそこに立っていた。


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