第 5 章
息づく大地
-2-

5/12


「この辺りでいいか」

 山道にさしかかった所で、聖輝は車を止めた。全員、降りて外へ出る。

 木漏れ日からのぞく空は、快晴だった。空気が澄んで、新緑がまぶしい。いい季節だった。

「さて、見つけやすい所にいてくれると助かるんだけど」

 大きく伸びをして、寛也が呟く。

 この広大な山林の中に眠っているであろう石竜を捜し出すのは、火口に眠っていた自分を探すよりも困難かもしれないと思えた。

「手分けするか。ここからは勘が頼りだ。慎重にいこうぜ」
「ああ」

 竜身として目覚めれば、何となく分かるようになった。仲間がこの近くにいるらしいとういうことが。それを辿っていけば、多分巡り会えるだろうという、結構頼りない捜査方法だった。

 ふと、寛也は杳を振り返る。

「お前、ここで待っていろよ」

 意外な言葉に、杳が抗議の声を上げない訳がない。

「オレも捜すの、手伝うよ」
「ここから先は俺達にもアテはないんだ。お前、どうやって捜す気だ? それより車の番をしてろよ。レッカーに持っていかれても困るし」
「こんな所にレッカーなんて来るもんか。オレひとり残して、自分らだけいいカッコしようって言うんだろ」

 寛也は昨夜の様子が嘘にしか思えなかった。こっちの方が目眩がしそうだった。

「何ならお前、帰ってもいいんだぜ」

 横から聖輝が助け舟を出す。

「ちょろちょろされて足手まといになるくらいなら、いない方がマシだ」
「何だよ、その言い方は」

 今度は杳は聖輝に食ってかかる。

「オレがいつ足手まといになった?」
「これから先のことだ。力のない奴は重荷にしかならない」

 きっぱりそう言い切る聖輝。さすがの寛也もハラハラものだった。思った途端、杳の平手が鳴った。

 パシーンッ!!

 新緑の野山に、景気のいい音が木霊した。

「そんなこと、言われなくても百も承知だ。そんな子供騙しな言葉にひっかかってとっとと帰る程馬鹿じゃないよ。オレはついて行くからな、何言われたって」

 本当に、昨夜の姿が信じられなくなった寛也だった。

 寛也は少々控えめに、杳に声を掛ける。

「ま、どちらにしても別行動を取るんだから、ここに誰かいてもらった方が、いいかなぁ…?」

 ジロリと睨まれる。何でこんなにビクビクするのか自分でも分からなかった。

「分かってる。留守番してりゃいいんだろ。さっさと行けよ」

 倍増しに機嫌が悪くなったように見えた。そこで、杳の気が変わらない今のうちにさっさと出ることにした。

 取り敢えず寛也と聖輝で左右の道へと分かれることにした。携帯電話なんて持っていないと主張する寛也と杳だっので、定期的に車へ戻って連絡することと、必ず正午には一度戻ることを決めた。


   *  *  *



次ページ
前ページ
目次