第 5 章
息づく大地
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「俺達はもともと中央の宮と自分の宮とを行き来していたから。
あみやは中央の宮――天と地の竜王が住まう宮の巫女で、あみやが死んだのは俺が自分の宮――今の阿蘇の近くに帰っている時のことだったんだ。
ま、あの時は俺に限らず、全員が下がっている時だったんだ。だから、誰も詳しいことは知らないんじゃないのかな。
で、俺が駆けつけた時にはあみやは胸を竜王の剣で貫かれて息絶えた後だった。
天人(あまと)――天竜王は荒れ狂い、あみやを死に至らしめたきっかけが何だったのか、知るすべもなかった。
俺達には奴を止めるのが精一杯でな」

 覚えていないと思っていた割りには流暢に出てくる言葉に、寛也の方こそ驚いていた。

 きっかけが考えられるとしたら、あの阿蘇での覚醒だろう。あれ以来、何か自分の中に強い力のようなものを感じていた。

 幸か不幸か竜王によって阿蘇へ飛ばされたことが自分の本来の力を呼び戻したことになるのではないだろうか。

 自分は先陣を行くので、最初に倒れたから最後にどうなったかなんて知らなかった。

 しかしこうしてみんな転生している所を見ると、みんな死んだんだろうことは見当がついた。

「この前、翔くんが言ってたので、”大切だった人の命を奪った人間”っての、覚えてる? あみやを殺したのは人間?」

 東京で出会った翔が言っていた言葉だった。

 自分が望むものは「一番大切だった人を奪った人間達の血」だと。「大切だった人」があみやなのだとしたら、あみやを殺したのは人間ということになる。

「いや、違うだろ。竜剣を人が扱えるわけないから」

 寛也も不審には思っていた。

 しかし、あみやは竜剣で殺されたのだ。その持ち主である竜王以外に誰ができるものか。

「だったら変じゃない。翔くんの、天竜王の大切な人ってあみやじゃないんだ?」
「いや、それは…」

 多分、十中八九間違いなくあみやのことだと考えられた。

 それならば何故、天竜王はあみやを殺したのだろうか。

 いや、あみやに手をかけたのは人間だったのだろうか。

 竜王本人にでも聞けばはっきりするのだろうが。

 つと、堂々巡りをしてくる思考に嫌気がさしたのか、杳が立ち上がる。

「どうした?」

 横顔が、不機嫌そうに見えた。

「眠い。やっぱ寝る」

 それだけ言って、寛也にくるりと背を向ける。

 声を掛ける間もないほどに、さっさと隣室へと姿を消してしまった。

「おい…」

 さすがの寛也もあきれて見送るしかなかった。

「自分から聞きたいって言っておきながら…」

 肩をすぼめて呟いて、寛也も椅子から立ち上がった。

 今夜はもう寝てしまおうと思った。

 これでも結構疲れていたのだった。


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