第 5 章
息づく大地
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「明日は晴れるってさ」
部屋に戻ると杳がそう言った。テレビの天気予報が丁度終わったところだった。
「お前、本当に帰らなくていいのか?」
テレビのリモコンを既に自分の所有物にし、ブツブツ言いながらチャンネルを飛ばしている様は、既に自宅のようにくつろぎきっていた。
「大丈夫、大丈夫。下手に帰ったりしたら、今度は外へ出してもらえなくなるよ」
「お前のうち、厳しいんだな」
「…心配性なだけだよ」
杳はそう言って小さく笑った。
とは言え、預かっている翔が行方不明で、息子の杳は出たきりの状態で、親が心配しない訳がない。
強引にでも帰らせた方がいいのではないかと思いはしたが、きっとこの杳のこと、頑として聞くことはないだろう。
それが杳なりの責任感なのだろうと思い、寛也はそれ以上このことに触れるのは止めにした。
あちこちチャンネルを変えてはみたが、気に入るものがなかったのだろう、ついには電源を切って杳は大きく伸びをする。
「ここ、ゲームないの?」
朝7時に起きられないかもしれない人間の言葉とは思えない。
そう言うとプイッとそっぽを向いて返してくる。
「まだ10時にもならないのに何言ってんだよ。第一、眠くないのっ」
「そりゃあ、帰りの車の中で爆睡してんだもんな」
聖輝が彼の車でここまで送ってくれただが、その間、杳は後部座席で熟睡していたのだった。
「仕方ないだろ。昨夜は寝てないんだから。誰かさんの所為で」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ。それより早く寝ろって」
「眠くないってば」
ここで言い合いをしていても始まらないと、諦めたのは寛也の方だった。
普通なら絶対引かない筈なのに、杳にならあっさりと譲ってしまうのだ。
下らない我がままを聞ける程、自分が成長したとも思えなく、寛也は不思議でならなかったが、本来あまり深く物事を考える性格でもなかった。
「じゃあ、風呂を沸かすから先に入れよ。昨日も入ってないんだろ」
しかし杳はそっぽを向いたまま答えなかった。何か気に障ったのか、しかし寛也もそれを気にとめるつもりはなく、言った通り風呂場へ足を向けた。
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