第 5 章
息づく大地
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「待てよ」

 アパートの狭い階段を降りて、自動車のキーを差し込もうとすると、後ろから声をかけられた。

 寛也だった。

「まだ何か用か?」

 寛也は階段を駆け降りてくる。

「あー、えっとー」

 元気に駆けよって来たわりには、いきなり言葉に詰まっていた。

 頭をボリボリ掻きながら言葉を探している寛也を黙ってまってやる程、聖輝は相手を認めている訳でもなかった。

「大したことじゃないなら、明日聞くぞ」

 そう言って聖輝はドアを開けて車に乗り込もうとした。その背中に向かって寛也が呟くように言った。

「昼間は悪かったな。その…あんたの大学、壊して」

 意外な言葉に聖輝は振り向く。と、寛也は口を尖らせたまま、ふて腐れたような表情をしていた。

 きっと人に謝り慣れていないのだろう、言葉遣いも態度も知らないときている。

 が、その様がかえって聖輝の好意を誘ったのは事実だった。

「お前のせいじゃない。第一、そのお陰でしばらく休講だからな。その間はお前らに付き合ってやれる」
「そうだよな。俺達の学校も紫竜のヤツに吹っ飛ばされて休校になったんだ。同じだよな」

 寛也のこの言葉に、聖輝はピクリと頬を引きつらせる。

「同じね…これがお前の故意じゃない限りな」
「う…」

 また、言葉に詰まる寛也。

 これ以上突っ込むことはお互いに良くないと判断して、聖輝はさっさとエンジンをかけた。

「じゃあな」

 簡単に別れを告げ、車を出した。

 まさか本当に故意ではなかろうかと、疑う心に蓋をするのが精一杯の聖輝だった。


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