第 4 章
静かなる水面
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「本当に、逃がしてしまっていいの?」

 去って行く優の後ろ姿を見送りながら、杳が寛也に聞いた。

 結局優は寛也の言葉足らずな説得には応じなかった。

 本人に戸惑っているところがあるのを感じとって、あえて自由にさせることにしたのだ。

 加えて、光竜が見誤る訳がないとの考えもあった。

「好きにするさ。第一、捕まえておいても、収容場所がないじゃないか」
「ヒロのうちに縛っておくとか」
「竜体をか?」
「…そうでした」

 聖輝は仲間になると言ったものの、段々不安になってきた。

 仲間になると言うことは、必然的に年長者の自分が、この年下の高校生達の面倒をみなければならないという事実にふと気付いたのだった。

「ところで、ミルクセーキのにいちゃん」

 杳がふいに振り返り、聖輝に声をかけてきた。

 聖輝はその呼びかけに、ピクリと頬を痙攣させた。

「今、何て言ったぁ?」
「まあまあまあ」

 言っても無駄な事は寛也が一番承知していた。自分は「ヒロあんちゃん」である。

「オレ、昨日は寝てないから疲れてるんだ。送ってってもらえない? あんたの家からそう遠くはないから」

 尊大な態度でそう言う人間を、聖輝はこころよく思わないことにしている。

「勝手に帰れよ。役にもたたないのにのこのこやってくる人間が」
「あー、そんなこと言っていいの? バカヒロの暴走を止めたのは一体誰だと思ってんだよ」
「誰がバカだっ!」

 悟ったつもりでも、寛也はつい言い返していた。

「バカをバカと言って何が悪いんだよ」

 悪びれることなく、あっさりと答える杳。

「また…! 大体、お前は、人のことをよくもバカバカ言って、自分はどうなんだ?」
「オレは町中で竜になって、火の粉を撒き散らしたりしないよ」
「だからそれはなぁ」

 聖輝は大きく後悔をしながら、彼らに気付かれないように、こっそり退散することにした。

 これから先が思いやられる気がした。


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