第 4 章
静かなる水面
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「…そうですか、消えましたか」
日本間の広い畳を敷き詰めた奥の間に、少年が座っていた。
まだ幼さの残る面立ちに、不釣り合いな程の老成した瞳を持っていた。
彼は膝の前に置いた水晶球にうつる影にそうつぶやくと、ゆっくりと立ち上がった。
静かに、きぬ擦れの音さえもたてずに、彼は歩き、背後の壁に手を添えた。
途端に壁はその実態を失い、地下へと続く長い階段が現れた。彼はその暗い階段を明かりも灯さず降りていった。
やがて階段は終わり、ひとつの扉の前へ出る。
「…翔くんかい?」
扉の奥から声が聞こえた。
「ひとり、僕の手から離れましたよ。もう戻ってはこないでしょう」
「わざわざそれを言いに?」
「いいえ、あなたの御機嫌伺いに」
冗談とも本気とも取れないようなことを囁いて、翔は笑った。
その笑いが相手に読み取れないように。