第 4 章
静かなる水面
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「俺は無謀だとは思っていない。力の勝るヤツに力で勝とうなんて、確かに無謀かもしれないけどな」
言って寛也は杳の方を見る。
杳こそは関係ないとばかりに一人、公園から見下ろす町並みを眺めていた。
「それにあいつにさ、絶対勝てるって言われたら、何か勝てるような気がしてなぁ」
「はぁ?」
優は首を傾げた。
「だから、仲間にならないか? 俺は勝つつもりなんだ」
優は、惚けた表情のままそう言う寛也を見る。
目が合うと、何を思ったかにっこり笑って手を振ってきた。
脱力しそうになった。
最初に吹き出したのは聖輝だった。
「お前、本当にあの戦か?」
あえて古(いにしえ)の名前を持ちだし、聖輝は確認したくなった。
それ程に寛也は、外面が変貌して見えた。
「俺は、結崎寛也だよ。あんたが静川聖輝だって言うのと同じでね」
永の時は、神と言われた者さえも、変えてしまったようである。
かく言う自分も、変わったと思う。
ただ、変わらないのは、昔から守りたいものがあったということだけだった。
人として生きたいと、人と共にありたいと願ったのは、その存在があまりにもいとおしかったから。
だから神の身を捨てた。
今生(こんじょう)に生まれる事を望んだのだ。
ずっと守りたいと思って来た。今も、その思いは変わらない。
そう思い出して、聖輝は低い声で答えた。
「俺は、負けると分かったら殺される前に逃げるからな」
それは了承の意。
随分と無責任なものであったが。
しかし寛也は素直に歓迎する事を知っていた。
「勝つって言ってるだろう」
気楽な表情を向けて、笑った。
* * *