第 4 章
静かなる水面
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「人がちょっと目を離した隙に飛んで行ったかと思うと、こんなところで大暴れするなんて、本当に大馬鹿野郎だよな」
寛也の首根っこをつかむと、杳はそう耳元で怒鳴った。
寛也は短気になった自分に反省しながらも、馬鹿馬鹿と言われてむくれる。
竜身から人間の姿に戻った寛也は、それでも逃がすまいと、聖輝と優の二人を捕まえていた。
この顔触れで喫茶店へ入るつもりなどさらさらなかった。
しかし場所を変えないと人目につきすぎる。仕方なく大学の近くにある寺の裏山に上った。
そこには、昼間はめったに人の来ない公園があった。
「仲間は多い方がいい。相手はあの竜王だからな。俺とあんた、それから潤也と石竜を捜し出す」
寛也が言うのは、いわゆる竜王四天王である。
「…勝算なんかないだろう」
横から優が、吐き捨てるように言った。
「あの時は、勝ったけどな」
寛也はあっさりと返す。
本当は勝ったかどうかなんて、知らない。
寛也には、その時の記憶は殆どなかった。
「あれは、地竜王がいたからだろう」
「地竜王は今でもいるじゃねぇか」
「竜王の手の内にな」
「だから助け出す」
「どうやって?」
「それは全員揃ったら考える」
寛也はそう言うと、えらそうにふんぞり返った。
優はこめかみを押さえながら返す。
「俺は、無謀だと思うぜ」
「同じ無謀な事を俺にしかけようとしたのはどこの誰だ?」
それまで第三者を決め込み、黙って聞いていた聖輝が、優に低い声で尋ねた。
「それは…」