第 4 章
静かなる水面
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振り返ると、寛也が立っていた。
「つけてきたな」
優は自分の不注意を罵った。
それに気付き、寛也はにまにましながら答える。
「尾行は風竜の専売特許なんだけどな。俺でもまさか最後まで気付かれずにつけられるなんて思ってなかったしぃ」
惚けたその口調に優だけでなく、聖輝までもが腹立たしくなる。
「何の用だ?」
異口同音で聞いていた。
どうやら登場の仕方が悪かったようである。
不注意な寛也はそれでもくじけることがなかった。
「お前ら、俺の仲間にならないか?」
「…」
肯定の返事が返ってくるはずもないことは分かってはいた。
案の定、二人から返ってきたのは、露骨に侮蔑を含んだ視線だった。
「誰に言ってるつもりだ?」
敵と、へそ曲がりにとは、いくら寛也でもさすがに言わなかった。
「少なくともここで決闘するよりは、やり甲斐があると思うけどなぁ」
寛也は相変わらず惚けた口調で答えた。
が、表情はおもしろい獲物を見付けた子どものそれだった。
「天竜王が昔のまま、乱心したままだって言うのなら、それを阻止してこその竜神チームってものだろう」
「…勝手にチームを作るな」
優がつぶやくのが聞こえたが、寛也は無視して続ける。
「でも実際、あのチビは危ないと思うけど。マジで世界征服だってやりかねないぞ。そうなったらあんた」
寛也は聖輝を指さす。
「あんたの周りだってただじゃすまないと思うけど。死人の一人や二人…いや、まだあるかもしれない。自分だけはって思っても、それだけじゃすまないんじゃないか」
寛也の言うことはもっともらしく聞こえた。
実際聖輝もそうは感じていた。
この場は逃れることができても、いつまでもこの状態でいられる筈がない。
しかし、だからと言って、戦いに参加するつもりは毛頭なかった。
煮え切らない態度の聖輝に、寛也はいらいらしてきた。
「分かってんのか? 竜王の言う人界征服って言うのは、あんたも征服されるってことなんだぞ。今でこそ俺達がいるからおいそれと手は出してこねぇみたいだけど、俺達が負けでもしてみろ、あっという間に潰されるんだからな」
言うことは大袈裟だったが、真実であろうことも知れた。
それでもまだ迷う聖輝に、気の短い寛也はすぐにキレた。
「分かった。それなら俺がその前にお前らを倒してやる!」
「…は?」