第 4 章
静かなる水面
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「勝負をしないか?」
誘われるように校舎裏までやってくると、優は突拍子もないことを聖輝に告げた。その言葉に聖輝は訝しがる。
「何のために?」
言外に、お前が自分に勝てるはずがないとの意味を込めた。
しかしそれに気付いて当然だが、優は真剣な顔を向けたまま、同じ意味の言葉を繰り返す。
「俺と勝負をしろ」
朝会った時には、こんな素振りのかけらも見せなかったと言うのに、何があったと言うのだろうか。
聖輝は不信げな顔をわざと見せる。
「あんたらは俺よりも強い。それよりも竜王ははるかに強い。俺はいつもあいつには勝てなかった。何一つとしてな」
「…今更何のことだ?」
「あんたが勝ったなら、俺はこの件から手を引く」
「だから、分かるように話せって」
しかし優は聖輝の問いには答えず、再び竜身に姿を変えようとする。
その腕を聖輝が捕らえる。
「いきなりどういうことだ? 俺はお前と戦ったって何の利もないんだぞ。お前が竜王の元から離れようとどうしようと、俺には関係がないって知っているだろう」
「あんたは勝手なんだよ!」
優は聖輝のその手を乱暴に払いのけ、きつい眼を向ける。
「自分だけが、自分の周りだけが無事ならそれでいいと思っている。だから戦わない」
「それのどこが悪い。お前らの出して来た条件じゃないか。今朝も言ったな。俺は関係ないって。もう俺の周りをうろつくな。じゃないと、いくら竜王と言えども…」
「そいつの行動はあのチビの命令じゃないぜ」
あさっての方向から声が聞こえた。
チッと舌打ちするのは優。
見遣ると、見たくもない顔がそこにあった。