第 4 章
静かなる水面
-3-

1/10


「おい、静川ってば」

 背中をたたかれ、聖輝は我に返った。

「何ぼけーっとしてたんだ? 次、日文だろ、一緒に行こうぜ」

 クラスメートの明るい顔がそこにあった。

 聖輝はほっと溜め息をついて、同意の言葉を綴った。

 朝からいろいろあって、どうやら調子が狂ってしまったのかもしれない。

 大学に来る途中の道では老人を轢きそうになったし、信号無視をして張り込んでいた警察に捕まるし、踏んだり蹴ったりである。

 それを話すと、その友人は大声を上げて笑ってくれた。

 せめてもの救いは、今日は次のコマで講義も終わり、早々に帰れるということであろうか。

 聖輝は県外通学を口実に、サークル活動には参加していなかった。

が、その実は、昔から自分が人に馴染んでいけなかったからだった。

 理由は、知っていた。

 自分が他者と異質だと、覚醒する前から感じていたのだった。

 人の中に混じっていても、本質の違いはどうすることもできなかった。

 それがいつの間にか癖になって、自ら人との交わりを避けることが多くなっていった。


   *  *  *



次ページ
前ページ
目次