第 4 章
静かなる水面
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寛也はそう判断してから、口調を変える。
「それより、ここで会ったのも何かの縁だ。教えてもらおうか。天竜王は何を考えているんだ? 本気で、征服なんて考えているのか?」
「…さあね」
「さあねって、あいつに従ったってことは、同調するところがあったからなんだろう」
「…」
「じゃあ質問を変えるぜ。お前、何だってあのチビについて行ったんだ? 本気で手下になろうって考えたのか?」
しかし優は無言だった。無表情のまま、わずかに視線を逸らせただけだった。
「俺達は竜であることを捨てた。人として生きたいと思った。だから、転生を望んだんじゃないのか? それなのに、人を征しようって言うのか?」
「長い間に気の変わることだってあるさ。お前は何も知らなかったから…。ただ記憶を閉ざしたまま、眠っていただけじゃないか。…俺はもう、終わりにしたいんだよ。運命すら変えることができない神の存在なんて、まっぴらだ」
優はポーカーフェイスのまま、そう言って視線を落とした。
「…好きにすればいいさ。俺がお前に勝てないように、お前も竜王には勝てっこない。竜王は誰にももう止められないぜ」
小さく息を呑む気配がしたのは、杳のものか。
それに答えるように、優は杳を見遣る。
「お前の知っている竜王と、今のヤツとは別人だと思っておいた方がいいぜ。あいつは、あみやを無くしたままだ。誰の言葉も聞きゃしない」
「そんなことはないっ!」
杳はすかさず反論するが、あの剣を振り上げていた翔の姿を思い出し、一瞬気弱になる。
それに追い打ちをかけるように優は付け加える。
「だったら自分の目で確かめるんだな。ま、無事に会えたらの話だがな」
「もう行けよ」
唇をかみ締める杳をちらりと見やってから、寛也は優に低く言い放った。