第 4 章
静かなる水面
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阿蘇で別れた結崎寛也だった。
「よお、元気か?」
杳は惚けた顔の寛也に、握りこぶしをしてみせた。
とたん、口から堰を切ったように出てきた言葉。
「何やってたんだよ、このバカ。自分から首を突っ込んでいって、罠にかかって、約束も守らないなんて、本気で大馬鹿なんじゃない? 軽率過ぎるんだよ。もう少し考えて行動しろよ。人に心配ばっかかけさせて、このバカヒロッ」
「心配、してくれたんだ?」
「うるさいなっ!」
傍から見たら、まるっきり痴話喧嘩である。
この隙に優は退散しようと身の気を静めた。
だが、そのわずかな動きさえも寛也は気付いた。
ちらりと振り向く。
「お前、確か光竜の無言野郎だったな。覚えてるぜ。今日はいやに饒舌じゃないか」
ちっと、小さく舌打ちが聞こえた。
もともと優の光竜は、寛也の炎竜や聖輝の水竜と違って、平和の象徴としてあった。
それが彼らを相手にまともに向かっていって、勝てる筈もないことはよく分かっていた。
翔は、同じ気質を持つ華竜の滝沢雪乃を寛也の元へ行かせた。が、早くも彼がここまでたどり着いていることからも推測できろように、歯がたつわけがないのである。
「あの雪乃とかって言うねぇちゃんが元気だったんだから、外の奴らも無事だとは思っていたけど、お前も無傷だったようだな」
逃げる機会を逸して、優は口をつぐんでしまった。黙って、視線だけを寛也に向ける。
その態度に寛也は鼻先で笑ってから、続ける。
「俺の所には華竜をよこして、水竜の所にはお前か。天竜王は昔に比べて臆病になったのか? 人界征服なんて言っている割りにはやることが小さいんじゃねぇの?」
「俺の知ったことじゃない」
「あんたらの大将だろうが」
いつまでも睨み合いをしていてもきりがない。