第 4 章
静かなる水面
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 しかし一度口に出してしまったものは、取り消せなかった。

「お前などが知るはずもないことだ」

 一歩近づき、優は真剣な表情を向ける。

「何故知っている?」

 杳は問われて、言えない事を思い出す。

 別にばらしてしまっても良いことであるが、もしもの事もある。

 茅晶のことは伏せておいた方がよいと判断した。

 黙っていると、優の気が再び膨れ上がった。

「お前、誰の回し者だ? 一体何を知っている?」
「聞いているのはオレの方なんだから。何も知るわけないよ」
「だったら何故その名を口にする? 誰に聞いた? 風竜か? それとも…」
「あんたに教えてやる義理はないだろう。そうだな。紗和の身柄と交換ってんなら、教えてやってもいいけど」
「そんな条件に乗ると思ってるのか? この場で力ずくって手もあるんだぜ」

 「あみや」のことは余程気に障ることだったらしい。本気であることが、うかがえた。

 と、横から割り込んできた声。

「力ずくなら負けないけどなぁ」

 背後からの間抜けた台詞に、杳はくじけそうになった。

 振り返って見遣ると、名前の上に「馬鹿」の冠詞をつけてやりたい人物がそこに立っていた。


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