第 4 章
静かなる水面
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時間は、昨夜に逆上る。
「お前が駅に着く頃までには、迎えに行ってやるから」
阿蘇で寛也はそう言っていた。
しかし、駅で2時間待っても、果たして寛也は姿を見せなかった。
待っている時間がそのまま不安に変わっていく。
あれは罠だと気付いていながら、行かせてしまった後悔が押し寄せて来た。
新幹線を降りる迄は一緒だった茅晶も、駅に着くと杳の前から姿を消した。寛也に会うことを嫌ってのことだった。
杳は意を決して立ち上がると、先程から気になっていた公衆電話へ近づく。
そこに置かれている電話帳。
杳はそれを手に取り、パラパラめくってみた。
そこに、求める名を見い出すのは意外と簡単だった。
寛也の言っていた『静川』の姓は、その分厚い電話帳の中でも一つしかなかったのである。
そして、夜中歩いて、訪ねて行った。
結果、見事に粉砕した。
しかしこれだけで引き下がるつもりは毛頭なかった。
聖輝にも言ったが、寛也と合流できればもう一度行ってみるつもりだった。
ただ心配なのは、寛也自身の方。
約束の時間になってもやって来ない。何かあったのではないかと案じられる。
もちろん杳はこの時点で聖輝の見ていたニユースなど見ている筈もない。
しかし阿蘇で別れた時の寛也の様子から、戻ってこない以上、何かしら起こっているだろう事は察せられた。
とにかくここは、眠いし、疲れたし、腹もすいたことだし、久しぶりに自宅へ帰ろうかと考えたのだった。
何と言っても、夜中中歩いてきたのだから。
* * *