第 4 章
静かなる水面
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「話を戻すが、さっきのヤツは知り合いか?」
優はもう一度最初の質問を繰り返してきた。
「さあね」
教える義務も隠す必要もなかったので、こう答えた。
が、意外と彼の勘に触ったらしい。
無表情を通してきた瞳に、わずかに鋭い色がよぎった。
四天王と違い、本来は平和の象徴として存在していた光竜である筈の彼が、人類を滅ぼすなどと戯言を言う天竜王に従う事自体が不思議ではあった。
「ま、いいが。覚えておくことだ。もし俺達の前に立ち塞がろうものなら、竜王もただでは済まさないだろうことを」
「肝に銘じておくよ」
互いの真意は知れなかった。
* * *
あの日、寛也達がどうなったのかは、聖輝は聞かなかった。
あの喧嘩っ気の早い炎竜のこと、天竜王に向かって行ったに違いない。
そして自分の元に、天竜王の使いがやって来たということは、多分――。
力の差は歴然だった。関わるなと止めたことも無駄だったらしい。
今となってはもう手遅れであろうが、多少なりとも、見捨てて行ったことへの負い目がないでもない。
正しいことと、そうでないことの区別はつくのだから。
それを現在に縛られている自分の正当性でくるみ込む。
みんな過去のことだった。
竜王の乱心も、時代の終焉も、ただ一身に抱える喪失感さえも。
そうして聖輝は、彼らに背を向けることを選択した。